サニールージュ、サマークリスタル、金星、ゆうぞら……。一体なんの名前なのでしょうか? 実はこれらはすべて果物の品種の名前。スーパーの果物コーナーに行くと、ひと昔前の状況とは大きく変わり、聞いたことのない名称のりんごや柑橘類などを見かけることが多くなっているのではないでしょうか? わくわくするような品種の話だけを聞くと、世界や日本における果実栽培は明るく楽しいイメージだけになりそうですが、実はそうではありません。食糧難や温暖化、人口バランスなどが問題視される状況において、抱えている問題は決して少なくはないのです。おいしい果物の持続的な生産のためには、どのようなことが求められているのでしょうか? そこで今回は、「フルーツにおけるフードテック最新事情」として、果物の新しい品種改良の事例をわかりやすくご紹介。合わせて現代の果樹業を取り巻く深刻な社会問題にも触れながら、それらを解決していくための技術革新について、実際の事例を交えながらご案内していきたいと思います。
赤いキウイに桃の香りのイチゴ!? フルーツの持続的な生産を支えるフードテックとは?

果房あたりの果数が多い! 桃の香りがするイチゴとは?

モモやココナッツに似た香りを持ち、美しいサーモンピンクの果実が特長の「桃薫(とうくん)」。この新しいイチゴは限定的に出回っていて、タルト専門店の「キルフェボン」では、「静岡県産 “桃薫(とうくん)“のタルト」が登場している。(著者撮影)
モモやココナッツに似た香りを持ち、美しいサーモンピンクの果実が特長の「桃薫(とうくん)」。この新しいイチゴは限定的に出回っていて、タルト専門店の「キルフェボン」では、「静岡県産 “桃薫(とうくん)“のタルト」が登場している。(著者撮影)

 

新しい果物は海外だけにあらず、日本でも多くの新品種が登場しています。たとえば、「桃薫(とうくん)」というイチゴ。モモやココナッツに似た香りや甘いカラメルのような香りの成分が多く含まれている、従来のイチゴの風味とはまったく異なる新品種(2011年10月5日品種登録)。美しいサーモンピンク(淡黄橙色)の優しい色味が特長で、短い円錐形ゆえにモモのように見えるとも言われています。

 

桃薫は、「とよのか」と香りの強いワイルドストロベリーFragaria nilgerrensis「雲南」を交配した「久留米IH1号」に、外観がよく栽培しやすい「カレンベリー」を掛け合わせています。魅力は味や香りだけではありません。生育が旺盛で多収である(収穫量が多い)点でも品種改良が行われた好事例と言えます。

 

フルーツを使用したタルトで知られる、全国に11店舗を展開するタルト専門店「キルフェボン」では、季節限定のプレミアムなタルトとして「静岡県産 “桃薫(とうくん)“のタルト」が登場し、人気を集めています。

 

このように、日本における高品質な果物栽培の技術は世界有数であり、輸出品目としてのポテンシャルが高いために、今後ますます期待が寄せられることでしょう。しかし、現実的には、深刻な問題も多く抱えているのです。具体的には、栽培農家も栽培面積も減少傾向に進んでいるのが実情で、人口減少に加え農業就業者の減少に歯止めがかからず、農業のなかでも重労働とされる果樹農業は大きな試練を乗り越えなければならない時代に突入していると言っても過言ではありません。

 

とくに高品質な果実生産は労働生産性を犠牲にして手間をかける手作業により実現されていることが多く、他品目と比較して労働時間が長いことが問題になっています。そこでこれらの問題解決のための重要なカギを握るのが、テクノロジー。ここからは国内ですでに始まっている画期的な農業システムの一例をご紹介していくことにしましょう。