サニールージュ、サマークリスタル、金星、ゆうぞら……。一体なんの名前なのでしょうか? 実はこれらはすべて果物の品種の名前。スーパーの果物コーナーに行くと、ひと昔前の状況とは大きく変わり、聞いたことのない名称のりんごや柑橘類などを見かけることが多くなっているのではないでしょうか? わくわくするような品種の話だけを聞くと、世界や日本における果実栽培は明るく楽しいイメージだけになりそうですが、実はそうではありません。食糧難や温暖化、人口バランスなどが問題視される状況において、抱えている問題は決して少なくはないのです。おいしい果物の持続的な生産のためには、どのようなことが求められているのでしょうか? そこで今回は、「フルーツにおけるフードテック最新事情」として、果物の新しい品種改良の事例をわかりやすくご紹介。合わせて現代の果樹業を取り巻く深刻な社会問題にも触れながら、それらを解決していくための技術革新について、実際の事例を交えながらご案内していきたいと思います。
赤いキウイに桃の香りのイチゴ!? フルーツの持続的な生産を支えるフードテックとは?

AI技術を活用したスマート農業システム「ゼロアグリ」

ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」のコンセプト(同社提供)
ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」のコンセプト(同社提供)

 

生産者の労働省力化だけでなく、作物にストレスのない潅水施肥によって作物の収量、品質向上を実現するAI技術を活用したスマート農業システムとして2013年に登場したのが、「ゼロアグリ」。

 

“持続可能で稼げる「日本発デジタルファーミング」”をコンセプトに掲げるルートレック・ネットワークスという企業が提供しているサービスで、イチゴ、ブドウ、ナシ、メロンなどの果物はもちろんのこと、トマトやキュウリなどの野菜においても広く導入されています。

ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」のコンセプト(同社提供)
ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」のコンセプト(同社提供)

 

ゼロアグリは、農作業の潅水と施肥をIoTとAI技術により自動化し、「高収量・高品質・省力化」を実現したスマート農業システム。作物やその土地に合った理想的な土壌環境を維持するための潅水や施肥などの作業が、スマホやPCから遠隔操作で可能になるという画期的な仕組みです。たとえば、作物が1日に要求する潅水量≒蒸散量を計算し少量多頻度で潅水することで、人の手では難しい高い精度の水やりを実現することができます。

 

また、ゼロアグリの活用により農業生産における省力化や品質安定が実現するだけではなく、環境にも優しい栽培が可能に。青森県の夏秋トマト栽培における実証実験※1において、化学肥料の低減によりゼロアグリを使わない慣行栽培と比較して約48%の温暖化効果ガス排出量を削減に成功しています。

 

さあ、いかがでしたか? 世界における果物の未来を確かな技術革新に期待すること、そしてこれらの取り組みに私たちひとりひとりが関心を寄せ、考え実行していくことに大きな意義と可能性が生まれるのではないでしょうか。

 

 

 

<著者>

スギアカツキ

食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。