忙しい毎日を送るなかで「睡眠不足」を感じている人は少なくないのでは? スリープテック市場も拡大※し、睡眠の質にも関心が高まっています。2021年に発表された経済協力開発機構(OECD)の平均睡眠時間の各国比較によると、先進国を中心にした世界33カ国のうち日本はもっとも短く、1日あたり7時間22分。特に女性のほうが男性より睡眠時間が平均13分短いことも分かっています。また、睡眠不足による経済損失は年間15兆円に及ぶという試算も。睡眠不足は社会で取り組んでいかなければならない課題です。そこで、忙しい毎日でも睡眠の質を高める方法について、スタンフォード大学医学部精神科教授で睡眠生体リズム研究所所長の西野精治さんにお話を伺いました。
「寝だめ」の問題点とは?
――2017年には「睡眠負債」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に選ばれました。「寝だめ」は良くないというのは一般的にも浸透してきたと思うのですが、休日は平日よりつい多く寝てしまうことが多いです。
西野精治さん(以下、西野):例えば、いつもは7時に起きているのに休日はお昼過ぎに起きるなど、極端な朝寝坊をしてしまうと不規則な生活になり体内時計が乱れてホルモンバランスを壊してしまいます。ただ、普段より2時間程度の寝坊だったら、体が必要としている休息睡眠ということなので、そこまで気にすることはないでしょう。個人差もあり、普段の睡眠がその人が必要とする量が確保できていないという兆しであることが多いです。
そういう意味で、休息睡眠は必ずしも悪いものではないのですが、弊害もあります。弊害というのは、睡眠のリズムが後ろ倒しになることで月曜が辛くなって仕事やパフォーマンスに影響が出てしまう。いわゆる時差ぼけの状態なのですが、寝だめの問題点はそこにあります。
そうかと言って「これからしばらく十分に眠れない状況が続くから今のうちに寝ておこう」と、事前にたくさん寝ておくこともできません。夜の睡眠時間を増やすのが難しい場合、例えば12時から15時の間で1、2時間の昼寝をすると、夜の睡眠に影響せずに睡眠不足を解消できるので、少しずつ睡眠負債(睡眠が足りていない状態)を解消していくのがいいと思います。