忙しい毎日を送るなかで「睡眠不足」を感じている人は少なくないのでは? スリープテック市場も拡大※し、睡眠の質にも関心が高まっています。2021年に発表された経済協力開発機構(OECD)の平均睡眠時間の各国比較によると、先進国を中心にした世界33カ国のうち日本はもっとも短く、1日あたり7時間22分。特に女性のほうが男性より睡眠時間が平均13分短いことも分かっています。また、睡眠不足による経済損失は年間15兆円に及ぶという試算も。睡眠不足は社会で取り組んでいかなければならない課題です。そこで、忙しい毎日でも睡眠の質を高める方法について、スタンフォード大学医学部精神科教授で睡眠生体リズム研究所所長の西野精治さんにお話を伺いました。
寝る直前のお風呂は避けたほうがよい?
――お風呂に入る時間についても伺いたいです。先生の著書に、「入浴は寝る前の90分前が理想」とあったのですが、帰宅して夕食をとるとあっという間に寝る時間で、だったら朝にお風呂に入ったほうがいいのかな? と思うのですがいかがでしょうか?
西野:なぜ寝る前の90分かと言ったら、入浴すると一時的に体温が上がります。一旦上がった体温が下がり入眠の準備が整うまで時間がかかるので、90分としています。ただ、寝る直前にお風呂に入っても寝つきがいいのであればそこまで気にする必要はないのかなと思います。
もちろん質の高い睡眠をとるために科学的エビデンスに基づいたメソッドはあるのですが、自分の体と対話しながら経験的に自分にとってよい方法があるのであれば、それを続けるのも大事です。
――睡眠の質に神経質になるあまり、「これはダメ!」「これはOK!」と白黒つける必要はないのですね。
西野:睡眠の質を高めるアプローチとしては、いろいろなものがあります。寝室の環境もそうですし、枕や寝具なども。心理的な要因も関係してくる場合もあります。なので、まずはリーズナブルに試せることからやってみて、経験的によかったら続けていく。一般的に良いと言われていることも自分に合わなかったらやめるくらいでいいと思います。
※矢野経済研究所「スリープテック市場に関する調査を実施(2023年)」
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授/睡眠生体リズム研究所所長
株式会社「ブレインスリープ」創業者 兼 最高研究顧問