忙しい毎日を送るなかで「睡眠不足」を感じている人は少なくないのでは? スリープテック市場も拡大※し、睡眠の質にも関心が高まっています。2021年に発表された経済協力開発機構(OECD)の平均睡眠時間の各国比較によると、先進国を中心にした世界33カ国のうち日本はもっとも短く、1日あたり7時間22分。特に女性のほうが男性より睡眠時間が平均13分短いことも分かっています。また、睡眠不足による経済損失は年間15兆円に及ぶという試算も。睡眠不足は社会で取り組んでいかなければならない課題です。そこで、忙しい毎日でも睡眠の質を高める方法について、スタンフォード大学医学部精神科教授で睡眠生体リズム研究所所長の西野精治さんにお話を伺いました。
働く女性の睡眠時間が短い日本
――特に日本の女性は睡眠時間が短いということですが、睡眠時間について、男女差はあるのでしょうか?
西野精治さん(以下、西野):動物実験をすることもあるのですが、睡眠量はオスとメスで変わりません。ただ、人間の場合は第二次性徴が早いので、ホルモンの変化によって睡眠の質が変わったり、パターンが変わったりすることもあるのでその時期は性差が目立つのですが、基本的に違いはないです。
ただ、男女差で言うと、欧米では女性の方が男性に比べて長く寝る人が多く、日本や韓国、インドでは女性の方が睡眠時間が短い。生物学的な差というより、むしろ働く女性は睡眠時間が短く、女性を取り巻く環境といった文化的、社会的な側面が大きいと思います。
睡眠の質と病気、老化との関係は?
――睡眠の質が悪いと病気などにもなりやすいのでしょうか?
西野:調査をするとマクロの視点で言えば、睡眠と病気の関係について一定の傾向はありますが、個人に落とし込んだ場合、食事、運動やライフスタイルなどいろいろな要因が絡んでき例外も認められます。気になる点は自身で確認しながら改善していくことがいいのかなと思います。
――睡睡眠と老化の関係はあるのでしょうか?
西野:双方向に関係があると言えると思います。年を重ねるにつれて睡眠時間が短くなったり、早朝に目を覚ましたりなど、睡眠が変わってきます。逆に睡眠が悪くなれば、老化に伴う症状が早く出てくる可能性があります。
例えば、成長ホルモンは寝ている間に体をメンテナンスしてくれるのですが、入眠直後の深い睡眠が少ないと成長ホルモンの分泌も少なくなります。脳の老廃物も睡眠中に除去できるのですが、それがうまくいかないとアルツハイマー認知症等の発症にも関わってきます。そういう意味では、老化そのものではないのですが、老化に伴うような疾患が発症しやすくなると言えます。