「介護休業」などの制度利用、わずか「10人に1人」という現実
男性が会社を辞めたのは53歳。大学卒業以来働いてきた会社で、部長に昇進したときだったといいます。厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、50代前半・部長職の平均給与は月収で60.7万円、年収で984.0万円。給与はほぼ大台にのり、またサラリーマン人生の中でもピークに達しようとしているとき。男性は介護離職をしてしまいました。
2016年、介護離職数の増加を受け、法改正。支援内容は大幅に拡充されました。介護休暇は、正社員をはじめ、アルバイトやパート、派遣社員や契約社員も取得でき、要介護状態にある対象家族1人につき、最大5日取得できます。また、半日単位の取得も可能です。
また負傷や疾病、身体もしくは精神の障害などの理由から2週間以上「常時介護」が必要な家族を介護する場合に取得できる介護休業は、日雇い労働者を除くすべての従業員が利用可能。要介護状態にある家族1人につき3回まで、通算93日まで取得できます。
総務省『令和4年就業構造基本調査』によると、「介護者」は全国に628万人。そのうち仕事をしている人は364万人で、正社員など仕事を主としている人は274万人でした。一方で、介護休業等制度を利用している人は、仕事を主としている人でも32万人。323万人が制度を利用せずに介護をしています。単純計算、制度利用は11.6%。10人に1人という水準です。制度はあるものの、利用されているとは言い難い状況です。
離職して5年。最近では、在宅での介護に限界を感じ始めていると男性。施設への入居も進められたといいますが、どうしても踏ん切りがつかないといいます。「やはり、親を施設に入れるなんて……」という話ではなく、最も心配しているのはお金。
いつまで続くか分からない親の介護、一方で自分も確実に年を重ねている。老後を見据えて資産形成をしなければいけないと考えていた矢先に介護離職。現在、男性は十分に貯蓄があるとはいえない状況なのです。そのため親の介護費用は親の年金や貯蓄だけで賄いたいところ。しかし施設への入居となると、毎月、男性自身も負担しなければなりません。自身の将来を考えたとき、身銭を切るのは避けたいと、親を施設に入れることを拒んでいるわけです。
順調にキャリアを重ね、部長職にまで上り詰めた男性。そのキャリアの先には、悠々自適な老後が待っていたはずでした。しかし親の介護により離職。早く仕事を辞めた分、将来的に手にする年金は減額必至です。
――親の介護の先に、老後破産という言葉がチラつきます
介護離職の先に待つ、介護者自身の破産。高齢化の進展により、ますます増えていくでしょう。仕事と介護の両立を支援する制度の、さらなる強化が求めらえています。
[参考資料]