マスコミによって報道される高齢者の交通事故。「免許返納」を促す言説が飛び交うばかりですが、はたして鵜呑みにしてよいのでしょうか。東大医学部卒の医師である和田秀樹氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、高齢ドライバーによる交通事故が後を絶たない理由と、免許返納が高齢者におよぼす影響について、和田氏の見解をみていきます。
普段は安全運転だが…日本で「高齢ドライバーによる交通事故」が後を絶たないワケ【東大医学部卒の医師の見解】
「老害」という名の同調圧力
このように、薬の副作用で事故を起こした疑いがあるのに、ほとんど検証されていません。逆に、このような事故も、高齢者の免許返納の口実に使われているのが現状です。
私は「免許返納が高齢者いじめである」と一貫して述べていますが、それはこの問題が「老害の壁」の縮図となっているからです。
高齢者の交通事故が起きるたびに、テレビは高齢者の運転は危ないと言い、息子や娘からはもう年だから免許返納しなさい、としつこく言われます。ここまで言われると、本人はまだ運転できると思っているのに、免許返納の圧力に従わざるをえなくなってしまいます。
最近、「同調圧力」という言葉をよく耳にします。自分は意見が違うのに、多数の意見に合わせるよう暗黙のうちに強制されるという意味です。運転を続けたいという高齢者に、返納を迫るのも同調圧力の1つなのです。
それでも、運転を続けたいと言うと、今度は老害と言われるでしょう。
「老いては、子に従え」という言葉がありますが、息子や娘がそこまで言うなら、免許を返納するのもやむをえない。そうさせられてしまうのが、老害という名の同調圧力です。
ところが、免許返納すると生活する上でさまざまな不都合が生じます。特に地方に暮らす高齢者は、買い物にも行けないし、友だちにも気軽に会いにいくことができなくなってしまいます。そればかりか、要介護のリスクも上昇しますから、高齢者にとっては踏んだり蹴ったり。
高齢の夫婦2人暮らしで、1人だけ運転免許を持っている世帯では、2人とも要介護になってしまう危険性すらあるのです。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表