歯を失った場合の3大治療にあげられる「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」。保険診療ではなく、自由診療を選ぶと治療費が嵩みますが、よりよい治療を受けられると多くの方が思われているかもしれません。しかし、自由診療にも意外な懸念点があって……。本記事では医療法人社団アスクラピア統括院長の永田浩司氏が、歯の3大治療法における保険診療と自由診療のそれぞれのメリット・デメリットを解説します。
60代で28本の永久歯のうち“平均4.2本”を失う…歯の3大治療法「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の自由診療、〈治療費が高い〉以外の意外なデメリットとは【歯科医師が解説】
部分入れ歯…「保険診療」と「自由診療」との違い
保険診療の部分入れ歯がだんだんと緩くなるワケ
部分入れ歯のメリットは、保険診療であれば1万円台で安価に作れることでしょう。しかし、先述した「残存組織の温存」という観点からみると、歯を削らなくてよいものの、残った歯や歯茎に負担がかかる点がデメリットといえます。つまり、経済的負担は少ないが、自らの体のコスト(バイオロジカルコスト)がかかっているということです。
「以前はぴったり合っていたはずの入れ歯が緩くなった」とおっしゃる患者さんは多いですが、実はその原因のほとんどは入れ歯によって周囲の組織がダメージを受けたことにあります。また、噛む力はもとの歯の10%程度しか回復しません。
歯周病になりやすい!? 自由診療の部分入れ歯のデメリット
保険診療の部分入れ歯は、歯や歯茎の部分にプラスチック、バネに金属を使うことが定められています。しかし、金属のバネが見えてしまう審美性の問題があり、この20年ぐらいでバネにプラスチックを使った部分入れ歯が作られるようになりました。それが自由診療で作れるノンメタルクラスプデンチャーです。保険診療では金属だった部分が歯茎のような色になるので見た目の違和感がなく、粘膜にもなじみやすいのがメリットです。
ところが残った歯や歯茎を維持するための「よい入れ歯の3要素」という視点からみると、デメリットが見えてきます。その3つとは「汚れない、動かない、壊れない」。保険診療の部分入れ歯は残っている歯にバネを引っ掛けて使っていたのに対して、ノンメタルクラスプデンチャーは歯と歯茎を覆ってしまうため、唾液が溜まりやすく、歯肉炎、歯周炎、根面う蝕(歯の根元にできる虫歯)などのリスクが高まります。また、金属のバネに比べて入れ歯が揺れやすい、プラスチックのため3〜5年で作り直しが必要になるといった点も保険診療の部分入れ歯との違いとなります。
こうしたデメリットを解消できる自由診療の入れ歯にアタッチメント、コーヌステレスコープデンチャーなどがあります。しかし非常に高価なため、インプラントの普及によって選択されることは少なくなっているのが現状です。
自由診療で作る部分入れ歯は保険診療よりも満足度が高いと思われがちですが、筆者個人としては高い技術を備えた医療施設で作ったものであれば、保険診療でも十分に満足できる入れ歯が手に入ると考えています。