「うちの子、食事の音が気になる……」そう感じている親御さんはいませんか? 子どもの「くちゃくちゃ食べ」は、叱るだけでは解決しません。しかし放置すれば、健康リスクを著しく脅かすだけでなく、将来的な医療費負担の増加にも繋がることから厚労省も注視している大きな問題なのです。本記事では幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出氏が、口腔機能低下がもたらす弊害について解説します。

「クチャクチャ食べる子ども」が増えている理由…大人になって命を危険に晒す可能性も【歯科医師が警鐘】
子どもがくちゃくちゃ食べをするのは、親が叱らないから?
筆者が育った昭和の時代は、音を立てて食べると「お行儀が悪い」と酷く注意されたものでした。最近、音を立てて食べる子どもが増えているのは、親が叱らないからでしょうか? 筆者はそうは考えません。
実は背景にはライフスタイルの変化があります。柔らかい食べ物の普及やスマートフォン、タブレットの長時間使用による姿勢の悪化、さらには口呼吸の増加が主な原因として挙げられています。その結果、口腔機能が十分に発達していない子どもが増加。治療しないで放置すると、生涯に渡り影響をおよぼすことから、厚労省はその重要性を認め、2018年に「口腔機能発達不全症」として新たに保険治療適応の疾患に指定しました。
日本歯科医学会が行った「子どもの食の問題に関する調査」では、未就学児の保護者の54%が「子どもの食事について心配事がある」と回答しています。子どもに対しての心配事の上位は「偏食する(41%)」「食べるのに時間がかかる(32%)」「ムラ食い(29%)」「遊び食い(28%)」と、子どもが食事に集中しない傾向が見られます。また、保護者自身の悩み事も「子どもの食べやすい食事の作り方がわからない(17%)」「忙しくて手をかけられない(17%)」「食事を作るのが苦痛、面倒(12%)」と、悪戦苦闘の様子が伺えます。
お口の機能には「食べる」「飲み込む」「話す」「味わう」「潤す」などがありますが、発達不全症といってもこれらの機能がまったく働いていないわけではないので、保護者が見抜くのは容易ではありません。
特に年齢が低いときには、各お子さんで成長の度合いが異なり、また機能不全の差も大きくないので、判別するのは特に難しいです。年齢が上がれば、不全症のお子さんもそれなりに機能が向上するので(それでも十分な機能ではありませんが)、無難に食べたり話したりできているように見えます。
しかし、年齢が上がれば上がるほど、正常な口腔機能の人と不全症の人との差は大きくなります。つまり、日常生活を送っているだけでは正常な機能を身につけることができません。いかに早い時期に専門的な治療を受けるかが、口腔機能においては重要になります。