温暖化についての議論が盛んだが…実は地球は「寒冷化」している?

養老 温暖化についてどのくらいの人が信用しているんだろう。たばこの問題によく似ているね。象徴的だったのは、「不都合な真実」ってあるじゃないですか(アル・ゴア元アメリカ副大統領の著書)。前半が炭酸ガスによる温暖化で、後半が姉さんが肺がんで死んだ時に医者が「たばこを吸ったからだ」と言ったという極めて単純な話を書いたんですね。

アル・ゴアは当時クリントン大統領の下で副大統領でしたからね。要するにこれは全て政治問題だなあと思ったんで、政治が嫌いだって昔から言っているのは、そういうことなんです。

政治的な話題に口を出すと、プラスマイナス、賛成反対で、もうケンカになるに決まってるんですから。うちの中では女房が政治のことを言った時には、絶対黙ってる。賛成も反対もしない。そんなことでうちの中で揉めてもはじまらないからね。

名越 僕も「不都合な真実」を映画で見てコメントを書かせてもらったんですが、どこまで自分として責任持って言えるだろうと思って。とっても面白い映画なので、考えあぐねて「ゴアの説得の時の真摯さはたいしたものだ」ということを書いたんですよ。

そうじゃなくて、地球温暖化について何か書くべきだったんだろうけれど、やっぱり僕はその時点では、それはとても確信持てないなと。

― ゴアのお姉さんが喫煙者で肺がんで亡くなってからアメリカでは禁煙が当たり前な状況になっていきました。日本でもそれを追随するようになってきています。

養老 そうですね。ホントによくアメリカの後をついて歩いてますね。日本の人たちは足元の、目の前の状況はとりあえず無視するっていうことですね。

禁煙のことを議論する時にね、そんなこと議論するひまねえよって。議論する時間あったら一服してゆっくりしたいよ。

― 世知辛い世の中です。

養老 世知辛いというより、物事の軽重が分からなくなっていますね。軽い重いがね。最近の寒さなんて、僕、久しぶりにですね、本当の冬を感じています、今年は。逆に言うと、ここ数年間暖かったんですね。先ほど、いつ寒冷期が来るか分からないという話がありましたが、実際、寒冷化が進んでいるんじゃないですか。これが本当だって思いますね。

名越 地球のことを小さい小さいというけれど大きいですよ。感覚って大事だと思うんですね。感覚的に納得できる、というね。養老先生の話じゃないですけど、ウイルスにとっては指紋が大渓谷だと。調べてみたんです。ウイルスがピンポン玉だとしたら、人間の体が本州ぐらいの大きさになる。そんな極小のものがどういうふうに動いているとかどうして分かるのか、とか。

例えばものの本によると、100ぐらい遺伝子が、ウイルスが入ってきても活動しているのは2、3個やと。あとはいわばモノなんですね。そういう世界なんで、それをね、どういうふうに回避するとか、どんな流れとかね、本当に僕たちは専門家も含めて彼らウイルスを把握しているといえるんだろうか、とね。

スケール感として、まさに物事の軽重、どういうスケールで物事を見るのかという問題を全部スルーしている。それはね、「分からないから賢い人に任せます」「僕には能力がありません」と言っているのと一緒じゃないですか。それを専門家が「こうですよ」「ああですよ」と言ったことを真に受ける。でも納得はしてないですよね。納得はしてないけど、考えることをあきらめていますね。

養老 孟司
医学者、解剖学者

名越 康文
精神科医