死にそうな思いをするのも悪くない

不慮の事故に直面することは、だれにとってもイヤなことだろうと思います。

しかし、実際に不幸な経験をした人に話を聞くと、「むしろ有益だった」と答えることが少なくありません。そんなに悪いことでもなかったというのです。

米国アリゾナ州立大学のリチャード・キニアーは、「死にかけた経験」をした17名(平均約50歳)についての研究を行っています。17名のうち8名はがん、3名は交通事故、2名はダイビングの事故、2名は心臓移植、1名は腎臓移植、1名は心臓発作です。

彼らに話を聞いてみると、だれもが死にかけたことをポジティブにとらえていました。

たとえば、彼らが口をそろえて言うのは、「物質的なモノに執着しなくなった」ということ。高級な自動車に乗りたいとか、大豪邸に住みたいとか、そういう物欲がきれいさっぱりなくなったというのです。「あわや」という経験をすると、生きているだけで幸せを感じられるようになり、物欲が消えるのでしょう。

また死に直面した人たちは、「人にやさしく」もなりました。それまでは性格的に怒りっぽかった人でも、死にかけるという経験をきっかけに、家族や友人のありがたみを感じるようになり、やさしい人に生まれ変わることができたのです。

さらに彼らは、「日常の些事を気にしなくなり、楽観的になった」とも答えました。死ぬほどの経験をすると、細かいことが気にならなくなったのです。死ぬことに比べれば、たいていのことは些事になりますので、心配や悩みを抱かなくなったのです。

歳をとってくると、いろいろと不慮な事故が起きることもあるでしょう。

反射神経が鈍くなるので、自動車で事故を起こしてしまうかもしれません。つまずいて転倒することがあるかもしれません。いきなり心筋梗塞を起こすかもしれません。

ですが、かりに死にかけるような事故に巻き込まれても、その後にはポジティブな変化が起きますので、心配しすぎることはありません。不幸に見舞われたとしても「ありがたいことだ」と感謝してもよいほどです。

「死」を意識すると、人はやさしくなったり、社会や世間に恩返しをしたくなったりするなど、好ましい変化が起きます。

心理学ではこれを「スクルージ効果」と呼んでいます。スクルージというのは、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』という小説に出てくる主人公の名前。冷酷で強欲なスクルージでしたが、死に直面するきっかけを通して、やさしい人間へと生まれ変わっていくという筋書きの小説です。

死を意識するのは、決して悪くありません。

もし不幸な目に遭ったとしても、ポジティブに受け止めてください。