頑張りたくても頑張れなくなってしまう……。そんなうつ病に苦しんでいる人と接する際、特に気をつけたいのは「声の掛け方」。精神科医である和田秀樹氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、うつ病の人に言ってはいけない「NGワード」について、詳しくみていきましょう。
「何が食べたい?」「お茶でも飲みに行かない?」という言葉が、うつ病を患っている人にとって〈NGワード〉なワケ【医師・和田秀樹氏が助言】
プレッシャーを与える言葉と判断を求める言葉はNG
「早く元気になってね」というのも優しい言葉のようで、本人にプレッシャーを与えることが珍しくありません。同様に「いつになったら治るのよ」もNGワードと言っていいでしょう。
夕食などで「何が食べたい?」と聞くのも危険です。このレベルの判断力もなくなってしまうのがうつ病の怖いところなのです。「鮭を焼いたので、夕飯は鮭でいい?」と提案型で尋ねるほうが無難です。
「ちょっと散歩に行かない?」「お茶でも飲みに行かない?」などと誘う声かけも注意が必要です。うつ病の回復期に、少しずつ外に連れ出そうというのならば、こういった声かけは悪くないのですが、まだそこまで良くなっていない場合は、患者にとってかなりのプレッシャーになってしまいます。うつ病の人は、「行きたくないな」と思っていても「行かないと悪い」と思ってしまいがちだからです。風邪で発熱してだるくて動けない状態のときに、歩くことのできない状況を想像してみてください。うつ病の人にとっては、それと同じぐらいつらいものなのです。
否定的な言葉はNG。できなくても責めないことが大事
基本的には、否定的な言葉はNGと考えてください。
うつ病の人は、子どもと違い、𠮟られることで矯正はできません。逆に自責の念が強くなるだけです。毎日のようにご飯を残してしまうとしても、「食べられなくてつらいね」といたわりの言葉をかけるくらいで、ちょうどいいのです。「また、食べなかったの」という言葉はNGです。逆に食べられるようになったら、「食べられたね」と、喜んであげるのが望ましい対応です。ただ、「食べられた」ということをあまり強調すると、今度は食べることにプレッシャーを感じてしまうこともあるので要注意です。
いろいろと気をつけないといけないことが多いので、大変だと思われた方も多いでしょう。ただ、命がかかっていることなので仕方がないことをご理解ください。
とはいえ、若い人のうつ病と比べると、薬が効きやすいのが高齢者のうつ病の救いです。本人だけでなく、家族も、「いつまで経っても治らないのでは」と思うことの多い病気ですが、高齢者の場合は、数ヵ月のうつ状態の後に、噓のように元気になることは珍しくありません。
とにかく焦らず、期待を持ち続けて、患者さんをなるべく刺激しないようにして待つことが大切なのです。ただし、本人の前では、あえて期待を示さないほうが得策でしょう。
このような見守りと抗うつ薬などの治療で、高齢者のうつ病は治ることが多いのですが、一方で再発をしやすい病気であることを忘れてはいけません。特にカウンセリングを受けていない場合は、かなり再発率の高い病気です。再発の場合も、早期発見・早期治療が原則です。そのチェックも家族の役割です。
また、高齢者のうつ病の場合は、加齢によるセロトニン不足が背景にあることが多いため、薬は医者が大丈夫と言わない限り、やめないほうがいいと思います。再発に早めに対応するためにも、薬を飲み続けるためにも、良くなったと思ってからも医者に通い続けさせるのが得策だと思います。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表