年を重ねるにつれて、筋力や意欲、記憶力の低下に悩む人も少なくありません。「年のせい」と見過ごされたり、「うつ病」を疑われてしまう場合もありますが、実は、別の問題が隠されている可能性がある、と精神科医である和田秀樹氏はいいます。和田氏の著書『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』(KADOKAWA)より、詳しく見ていきましょう。
筋力や意欲、記憶力の維持にも効果的…和田秀樹氏がおすすめする、〈アンチエイジング〉のクリニックで「最もリピーターが多い」治療とは
男性更年期障害を放置すると「心筋梗塞」「骨粗鬆症」のリスクが上がる
物忘れなどの認知機能低下も起こるので、認知症と誤診されることもあります。さらに、心筋梗塞など心血管疾患のリスク上昇、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、LDL(悪玉)コレステロールの上昇とHDL(善玉)コレステロールの低下などが見られます。メタボリックシンドロームの危険因子となっているので、寿命にも影響を与えます。
また、骨粗鬆症の原因にもなります。運動をして肉を食べても、筋肉がつきにくく、その分脂肪が増えるので、その後のフレイル(虚弱状態)や要介護状態につながることも珍しくありません。さらに、異性への関心がなくなるだけでなく、人付き合いもおっくうになるので、周囲の人との会話も減り、認知症のリスクにもなりかねません。
はらたいらさんは、長年、うつ病という診断を受けながら、うつ病の薬を飲んでもさっぱり症状が良くならなかったそうですが、この病気の診断後、男性ホルモンの補充治療を受けたことで、比較的速やかに回復されました。このように、男性更年期障害は、うつ病と誤診されやすい病気の一つで、高齢者にとっては、むしろうつ病よりも多い可能性があります。そう考えると、一度は、男性ホルモンの検査をしてみるのも賢明かもしれません。筋力の維持や意欲や記憶力の維持のためにも、男性ホルモンの補充は有効です。
女性の場合、閉経後、男性ホルモンは増えることが東日本大震災後の調査で明らかになりました。女性が更年期以降、むしろ元気になったり、人付き合いが盛んになったりするのは、この男性ホルモンが増加する影響と考えられます。実際、高齢者の団体旅行の参加者に、女性がずっと多いのもこうした理由があるのかもしれません。
ということで、男性のうつ病がなかなか良くならない際は、男性ホルモンの検査をしてみることが重要です。検査の結果、値が低ければ、男性ホルモンを足す価値が十分あります。私の患者さんでも有効性はとても高く、アンチエイジングのクリニックでは、リピーターが最も多い治療になっています。
男性ホルモンの補充でうつ病の症状改善も
うつ病の患者さんも、実は男性ホルモンの分泌が減ってしまうというケースが多くあります。そういった人に、治療で男性ホルモンを補充すると、うつ病のほうは完全には良くならないまでも、ある程度症状が改善したり、意欲が増すことがあります。そういう意味でも、男性ホルモンの値を知る検査は大切です。
一見、女性には関係ないことだと思われがちですが、女性も意欲が落ちている際などは、男性ホルモンを足すことがプラスに働くようです。私の患者さんでも、高齢になってもクリエイティブな仕事をしている人には、男性ホルモンを補充すると「意欲がわく」「頭がはっきりする」などと言われて、喜ばれています。
男性の場合は、注射で投与することが多いのですが、女性の場合は、それより量の少ない飲み薬で、十分効果を実感できるようです。
和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表