1―はじめに…「女性の活躍推進」から10年余り、M字カーブはおおむね解消、パワーカップルも増加?
2013年に政府が成長戦略として「女性の活躍推進」*1を掲げてから10年余りが経過し、働く女性を取り巻く環境が改善している。育児休業制度や時間短縮勤務制度、テレワークなどの仕事と家庭の両立を図るための就労環境の整備が進んだことで、共働き世帯が一層増え、夫婦ともに高年収のパワーカップルも増加傾向にある。
女性の就業に関わる各種指標も大きく改善している。まず、労働力率について見ると、日本では長年、「М字カーブ問題」が課題であったが、この10年間で、出産や子育て等の離職の多かった30代での凹みはおおむね解消されるとともに、幅広い年代で労働力率は高まり(特に60~64歳は47.4%→65.3%で+17.9%pt)、全体でも48.9%から54.8%(+5.9%pt)へと上昇している(図表1)。
また、指導的地位に占める女性を増やすことは引き続き課題だが、民間企業における女性役員や管理職比率は上昇傾向にあり、2025年の政府目標値にも近づいている(図表2)。
これらの結果、共働き世帯数は専業主婦世帯数を一層上回って増加し(図表3)、2023年では子育て世帯の6割超が共働き世帯となっている(図表4)。
このような中で当研究所では、夫婦ともに高年収の「パワーカップル」に注目し、定期的にレポートを発信している*2。本稿では、最新のデータを用いて、世帯全体や共働き世帯の夫婦の収入の状況などを捉えた上で、パワーカップル世帯の動向を確認する。なお、パワーカップルについての明確な定義はないが、これまでと同様、一定程度の裁量権を持つ年収水準であることや所得税の税率区分などを考慮し、夫婦共に年収700万円以上の世帯と定義する*3。
*1:「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日)
*2:久我尚子「パワーカップル世帯の動向(1)-コロナ禍でも引き続き増加傾向、子育て世帯が約6割」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2023/07/13)など。
*3:当研究所以外の分析では、共働き夫婦の合計年収を2千万円以上とするものや年収に加えて金融資産の量を考慮したもの、あるいは政治家や事業家など影響力のある夫婦を指すものもある。
2―世帯の所得分布…年間平均所得は546万円、1,200万円以上は7.2%、南関東や大都市で多い
パワーカップル世帯の状況を捉える前に、まず、世帯の所得*4状況についての全体像を確認したい。
厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」によると、総世帯の年間平均所得金額は546万円、中央値は423万円である。
パワーカップルが含まれる高所得世帯に注目すると、1,200~1,500万円未満は全体の3.7%(201万世帯)、1,500~2,000万円未満は2.1%(115万世帯)、2,000万円以上は1.4%(74万世帯)を占める(図表5)。なお、過去10年ほど、1,200万円以上の世帯数や割合は、おおむね横ばいで推移している。
地域別に見ると、1,200万円以上の世帯は南関東(32.1%)や東海(16.1%)、近畿(13.2%)で多く(図表6)、これらの3地域で約6割を占める。また、都市規模別に見ると、1,200万円以上の世帯は大都市(政令指定都市と東京23区)では33.8%、人口15万人以上の市では27.1%、人口15万人未満の市では30.0%、郡部では9.2%を占め、高所得世帯は都市規模が大きい方が多い傾向がある(図表略)。よって、パワーカップル世帯も南関東を中心とした大都市に多く居住していると見られる。
*4:本節で用いる厚生労働省「国民生活基礎調査」は収入から給与所得控除額や経費等を除いた所得を捉えた統計だが、次節以降で用いる総務省「労働力調査」では収入を捉えたものであるため、パワーカップルの定義で示した通り、収入の観点から、パワーカップルの動向を捉える。