本来は「プロ向けの商品」のはずなのに…

なぜ、このようなリスクの高い商品が販売されているのでしょうか?

それは、販売する金融機関が受け取る手数料が高いからです。とくに銀行は、お客様の利益よりも自行の利益を優先するため、自分たちが儲かる商品を積極的に売ろうとするのです。

「それほどまでにハイリスクな劣後債を一般投資家が購入するなんて、危険ではないか!」と思われるかもしれませんが、それもそのはず、仕組債や劣後債は本来、プロ向けの金融商品です。

プロであれば、リスクをきちんと理解したうえで投資をしますから、問題はありません。しかし、個人向け金融商品の場合、商品を購入するのは、主に金融機関が対面で販売する顧客です。とくに高齢者の方は、商品の複雑な仕組みや投資に伴うリスクを十分に理解できないことが多く、勧められるまま購入してしまう…ということが起きてしまうのです。

金融庁は2023年6月、仕組債の販売における法令違反があったとして、千葉銀行や武蔵野銀行などに業務改善命令を出しました。千葉銀行が仕組債を売ったお客様の約3割は、低リスク商品を望んでいたといわれています。このように、金融機関が本来の商品目的にそぐわない形で販売するケースもあるため、注意が必要です。

一方で、20~30代の若い方に類似のトラブルが少ないのは、ネット証券で資産運用を行っているケースが多く、金融機関の対面販売で投資商品を買う方が少ないことがあげられます。ネット証券では仕組債や劣後債が販売されていないため、若い方には購入する機会がほとんどないのです。

ハイリスクな商品が販売され続ける、日本ならではの特殊事情

しかし、投資商品の購入を検討する高齢者のなかには、資産運用の経験がある人もいるはずです。それなのになぜ、上記のようなハイリスクの投資商品を購入してしまうのでしょうか。

そこには「日本の金融資産2,000兆円のうち、6割を60歳以上の高齢者が持っている」という特殊性が影響していると思われます。老後生活の厳しさが話題になる半面、日本人の資産家や富裕層は、ほとんどが高齢者です。つまり、そもそもお金をたくさん持っているため、多少の損失を被っても、そこまで大きなトラブルにはならないのです。

個人資産として10億円を保有している方が、仕組債や劣後債で1億円の損失を被っても、日常生活には大きな影響はありません。そのような背景があるからこそ、富裕層の顧客に大きなリスクを負担してもらい、高い手数料を稼ぐ…という、金融機関のビジネスが成立しているのです。

出典:内閣官房 第1回資産所得倍増分科会「資産所得倍増に関する基礎資料集」
[図表2]家計金融資産の世代別保有内訳 出典:内閣官房 第1回資産所得倍増分科会「資産所得倍増に関する基礎資料集」