スリム化が進む葬祭費ですが、それでも遺族にはかなりの負担です。そのため、亡くなった方の扶養家族の負担軽減を目的に、埋葬料もしくは葬祭費として支給されるお金があります。くわしく見ていきましょう。自身もFP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
亡くなった方の扶養家族に支給される「埋葬料・葬祭費」
50代主婦(横浜市青葉区)
人が亡くなった際、火葬や葬儀を行った人に対して、その費用の補助となる給付金(助成金)を受け取れる制度があります。この給付金のことを「埋葬料」や「葬祭費」といいます。
故人が「会社員として社会保険に加入」していた場合、故人によって生計を維持していた人が葬儀や火葬をおこなうと「埋葬料」が支給されます。
一方、故人が「自営業者として国民健康保険、国民健康保険組合に加入」していたり、「後期高齢者医療制度」に加入していたりした場合は、葬儀や火葬をおこなうと「葬祭費」が支給されます。
つまり、「埋葬料」や「葬祭費」のどちらも支給される、ということではなく、故人が加入していた健康保険によって、要件に該当する方のみを受給することになります。
故人が会社員時代は協会けんぽに加入していたが、退職後に自営業となり国民健康保険に加入した…という場合も、両方は受け取れません。埋葬料を申請したら葬祭費は申請できませんし、葬祭費を申請したら埋葬料は申請できません。どちらか一方のみ、申請をおこなうことになります。
また、「埋葬料」とは、仕事をしていないときに亡くなった場合に支払われるもので、業務災害や通勤災害で亡くなった場合は、労災保険から「葬祭料」が支払われることになります。
葬儀や火葬には多くの費用がかかり、どうしても金銭的な負担が大きくなります。そこで、健康保険が一部を負担する仕組みとなっているのです。
「埋葬料」「葬祭費」を受け取るための手続きとは?
「埋葬料」や「葬祭費」は自動的に支給されるものではなく、受け取るには故人が亡くなった日の翌日から2年以内に申請をする必要があります。
「埋葬料」は、故人の勤務先の健康保険担当者や加入している健康保険組合に申請することになります。必要な書類としては、記入した「埋葬料支給申請書」、故人の健康保険証、亡くなったことを証明する書類の提出が必要になります。他にも、申請者によっては必要となる書類が異なるため、申請先の指示に従い、必要書類を用意することをおすすめします。
一方、故人が国民健康保険の加入者だった場合の申請先は、地域の役所となります。必要な書類としては、「国民健康保険葬祭費請求書」と、故人の被保険者証、喪主の身分証明書、葬儀の領収書の提出が必要になります。
協会けんぽに申請する際に必要となる「健康保険埋葬料支給申請書」は協会けんぽのウェブサイトから、「国民健康保険葬祭費請求書」は申請する自治体のウェブサイトからダウンロードできます。ダウンロードした申請書はパソコン上での入力も可能です。
パソコンや印刷環境が整っていない場合は、社会保険の場合は勤務先から用紙をもらうことができますし、国民健康保険葬祭費請求書は年金事務所や市区町村役場でも入手できます。この場合、記入は手書きです。
申請によって支給される金額としては、協会けんぽからの場合は、一律5万円です。一方の市区町村役場からの葬祭費の支給額は、自治体によって異なりますが3万円から7万円となっています。
埋葬料・葬祭費を請求後、どの程度の期間で支給される?
埋葬料や葬祭費は、申請してから2週間から3週間後に支給されます。受給方法は銀行口座振込のみで、現金での受け取りはできないため、注意が必要です。
なお、申請書に記入する口座は、申請者名義のものとします。亡くなった方名義の口座は一定期間凍結され、使用できなくなっているためです。
埋葬料や葬祭費は、相続税申告で債務控除できる!
相続税の計算では、葬式費用を控除することができます。葬式費用とは、通夜や告別式の葬儀費用、火葬費用、納骨費用、僧侶へのお礼、死亡診断書の発行費用などです。ただし、埋葬料や葬祭費をもらうことで、実際にかかった費用の負担は小さくなっているはずです。これらの支給額を葬儀費用から除外し、実際にかかった費用で計算します。
社会保険から支払われる埋葬料や葬祭費は、亡くなった方ではなく相続人が受け取るべきものであり、相続財産ではありません。また、受け取った相続人にも所得税はかかりません。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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