安易に布団からベッドに変えるのは要注意

先日、こんなことがありました。
橋本さん(仮名)は、私たちのデイサービスに9年通っている90代の女性で、変形性膝関節症を患い、膝関節に人工関節を入れる手術を受けています。彼女は、昔から床に布団を敷いて、寝起きをしていました。


それが先日、ベッドのほうが起き上がるのがラクで、高齢者の多くがベッドを利用しているということを理由に、ご家族やケアマネジャーから、ベッドの導入を強くすすめられたそうです。
彼女自身は特に今の布団のままでも不自由は感じておらず、ベッドは場所をとることもあって、どうしたほうがいいのかと、私に相談に来られました。

確かに、起き上がりがラクになるという理由で、布団をからベッドに替える高齢者はたくさんいらっしゃいます。1人で起き上がれない、つらい、床で寝ていると腰が痛い、よく眠れないなどといったお困りごとがある方なら、確かにベッドに変えたほうがいいでしょう。

ただ、本人が布団で寝起きができて、不自由を感じていないのに、高齢者だから、膝の手術をしているからという理由だけで環境を変えるのは、むしろ危険です。ベッドからよりも、床から起き上がるほうが、筋肉をより使います。

つまり、布団からベッドに変えることによって、日々の生活のなかで無意識に筋肉を鍛えるチャンスを失ってしまうのです。手すりをつけるなどの介護用のリフォームについても同様です。

「60歳を過ぎたら、手すりをつけるとか、体を守るためのリフォームをしたほうがよいと言われたのですが、どう思いますか」こんな質問をよく受けます。

結論からいえば、体の状態は個人差が大きいにもかかわらず、一律に年齢だけでリフォームをするかどうかを判断するのは、賛成しかねます。

何度も転倒を繰り返していて危ない、明らかに体が弱っている、病気を患ったなど、何かしらの明確な理由があれば、手すりをつける、すべりにくい床にする、段差をなくすなどといった処置が必要でしょう。しかし、普通に生活できているのに、リフォームをして、わざわざラクに生活できる環境をつくるのは、老化予防・改善の観点からいうと、望ましくありません。

たとえば、手すりを使えば、腕の力を借りて立ち上がることになり、その分、足の筋肉は衰えることになります。また、段差を乗り越えようとしなければ、しっかりと太ももを上げて歩く機会も失われます。一見、些細なことに思われるかもしれませんが、毎日のことなので、それが積み重なると、大きな差となって表れるのです。

心配があるなら、リフォームする前に、試していただきたいことがあります。たとえば、段差の少し手前に、目立つ色をしたビニールテープなどで床に線を引き、「ここから先に段差がありますよ」と注意喚起をする印をつけるのです。照明を明るめのものに替えるのも、体にラクをさせるのとは別の観点での転倒しにくくするための工夫だといえます。

それでも、やはりつまずいてしまって危ないということになったら、手すりをつける、段差をなくすといった、転倒防止のためのリフォームを考えればよいでしょう。