日本の会社員は、人材採用後に多様な経験を積む「メンバーシップ型雇用」が主流です。この仕組みには課題もある一方、メンバーシップ型雇用で多くの経験を積んできた「ミドル・シニア世代」ならではの強みもあると、『55歳からのリアルな働き方』(かんき出版)著者で人材開発コンサルタントの田原祐子氏はいいます。今回は、役職定年前に監査部門に配属されたJさんの“逆転劇”をみていきましょう。
ぜひウチでも!→61歳で「関連会社の部長」に就任…50代・役職定年間近の“左遷社員”が起こした逆転劇【人材開発コンサルタントが解説】
営業、財務…多くの部門を転々としてきたJさんのコンプレックス
「部署異動」が前提になっている日本企業“ならでは”の強み
日本では、多くの企業が、メンバーシップ型雇用制度を採用しています。一方、海外ではジョブ型雇用制度が主流です。最近、日本でもジョブ型雇用制度の導入も増えてはきましたが、まだ多くの企業が、旧来のメンバーシップ型雇用です。
メンバーシップ型雇用の特徴は、「部門をまたいだ異動がある」ということです。ときには、自分が苦手な部門や想定外の転勤・異動も含め、あらゆる部門に異動となる可能性があります。じつはこれが、さまざまな知識を習得する絶好のチャンスでもあるのです。
Jさんは、あるメーカーで長年勤務しましたが、国内の営業所、本社、営業、財務等、多くの部門を転々としてきました。
通常は、営業部門ならずっと営業関連部門ばかりに従事している企業が多いなか、Jさんは、営業も、財務も、営業所のマネジメントもわかる、いい意味でのマルチプレーヤーでもあり、マネージャーでもありました。
しかし、Jさん自身は、ご自身のこの状態を、「虻蜂取らず※」の中途半端で、なんのスキルもないと感じていたようです。
※虻蜂取らず……あれもこれもとねらって、結局どれも得られないこと。欲張りすぎて失敗すること。
ところが、これが最後の最後に、逆転ホームランを打つ原動力になります。
ぜひウチでも!…「マルチプレーヤー」だからこそできた栄転
Jさんの役職定年前の最後の配属は、監査部門でした。
監査部門と言うと、稀に「左遷」というイメージを持つ人もいますが、とんでもない誤解です。監査部門は、複数の部門で蓄積してきたさまざまな経験がそのまま活かせる部門のひとつです。
特に、ご自身が経験してきた部門については、監査としての目のつけどころが手に取るようにわかります。
Jさんは、監査部門への異動に腐らず、監査のスキルを学び、着々と身につけていきました。こうして、Jさんはメキメキと力を発揮していったのです。
Jさんが地道に仕事をしている様子を見た上司は、Jさんを、メンバーに監査のスキルを教える「社内教育担当」に任命します。
Jさんが考えた研修の内容は評判も上々で、部下もどんどん力をつけていきます。
今度は、それを見た他の事業部門長たちから、「ぜひ自部門の教育も、Jさんにお願いしたい」という依頼が舞い込むようになり、Jさんは、やがて社内教育室長に押し上げられました。まるで、わらしべ長者のように、役職定年間際になってから、どんどんポジションが押し上げられていきます。
そして、Jさんは55歳の役職定年を迎えましたが、その後も教育係として厚遇されました。さらに、その後、監査室での業務全体を細部にわたり見渡すスキルと功績が買われ、61歳にして、関連会社の教育部長として赴任することになったのです。
61歳にして素晴らしい栄転! これからのJさんの活躍が楽しみでなりません。
田原 祐子
人材開発コンサルタント/ナレッジ・マネジメント研究者