【事例】“普通のサラリーマン”が高い給与で転職できたワケ

入社以来、20数年九州エリアを担当した経験が思わぬ活路に繋がる

Yさんは、長年、設備メーカーの技術部門を担当しています。本社勤務は、新入社員として入社して3カ月間だけ。その後は、ずっと全九州エリアの営業所を転々としてきました。設備のメンテナンスが必要であれば九州の隅々まで出かけて行っては、機器のメンテナンスを手がけます。

 

特に難易度が高いメンテナンスではないので、若手の社員でも対応できるのですが、長くこのエリアを担当してきたYさんは、いわゆる「顔役」の状態になっており、メーカーのみならず、いろいろな地域の役所や公民館、商店街等にもちょくちょく顔を出し、大変頼りにされる存在となっていました。

また、かれこれ30年近くも九州全域、島しょ部まで網羅してまわっているので、各地域の気質や細かい商流等も熟知しています。そんなYさんも55歳が間近となり、長年勤めた会社からは、嘱託での慰留の提案がありました。

 

ところが、ある友人に、ひょんなことから嘱託の話をしたところ、友人が、「もったいない! Yさん、九州全域に顔が利くんでしょう? 九州と言えば、私は九州に進出したい企業を知っているから、そこに紹介してあげますよ!」と、ある企業に繋いでくれたのです。

早速、Yさんは面接に臨み、晴れて今以上の高給優遇で、3年間の顧問契約をすることになりました。

企業が喉から手が出るほど欲しい、「エリアを熟知している人材」

じつは、こうした事例はよく聞きます。

世の中には、その地域に明るい方々に対する求人や顧問としての関わりを求める依頼は、必ず一定数あります

特に、未開拓の地域で新たに事業を展開・進出したい企業にとっては、Yさんのようにエリアを熟知している人材は、その状況をよく知っているだけでなく、「新規事業売り込みのための、地域の企業との面談のセッティングや、初回面談のアポイントが容易に取れる」ことから、喉から手が出るほど欲しい人材です。

Yさんの事例のような「地域との繋がり」は、無形資産の中でも、重要な「社会・関係資本」と言われるものです。

地域だけでなく、ご自身が培ってきた「商流」も、非常に価値があります。自社商品とバッティングしなければ、退職後に別の商品を売ることができるかもしれません。また、言わずもがな、「人脈」についても同様に、スタートアップから老舗まで、こうした人材を喉から手が出るほど欲しがっている企業は少なくないのです。

そして、これらはすべて、長年の経験知の蓄積があるからこそ形成されていく大切な資産であり、時間をかけなければ紡げない強みでもあります。

そして、「これらの社会・関係資本をどう活かすか」という鍵を握っているのは、あなたのもっとも貴重な経験知なのです。

田原 祐子
人材開発コンサルタント/ナレッジ・マネジメント研究者