連日のクレーム対応に、思わずため息がこぼれる40代女性

「もう、やんなっちゃうよ」頬杖をつきながら、ため息まじりの言葉がこぼれた。

書店の脇に併設された喫茶スペースにいるのは私たちだけ。テーブルをはさんで座る2人の間には、おしゃれな空間に似合わない空気が漂っている。

他にお客さんがいないせいで、いつもより気楽に愚痴を言える。

「今日なんかさ、新書だって言われて探したらぜんぜん見つからないの。そしたら新書じゃなくて新刊でさ。『新刊の単行本ですね』って訂正したら、『うるさい、新書だ』って譲らないんだもん。その対応だけで30分」

聞き終えた美鈴は思わず吹き出した。

「なにそれ、本屋さんの店長も大変だね。そんなにクレーマーって多いんだ」

「マジで大変なんだから。店頭だけじゃなくて、メールでもいっぱい来るよ、クレーム。しかも買った本の内容について文句つけられるの」

「本屋のせいじゃないじゃん、そんなの」

「でしょ? でも、うちに来るんだよ、この本のここがおかしいって。そんなメールの対応って、すごく疲れるんだよね。それで先月も1人辞めちゃったし。今回の河西さんの件でも青木君、まいっちゃってさ。あの子まで辞めちゃったらどうしよう」

注文された書籍を間違って他の人に売ってしまい、河西さんから怒鳴られた学生アルバイトの青木君。その後、たびたびやってくる河西さんを見ては震え上がっている。今日も雑誌の在庫を訊ねられて緊張。端末で検索中に「客を待たせすぎだ」と急かされてパニックになってしまった。

「青木君に辞められたら、うちの店、回んないよ。そのときは助けてね、美鈴」

冗談だとわかっているが、ほんとに助けてあげたいくらい真知子は大変そうに見える。小柄で頼りなかった彼女はいま、書店だけでなく併設されたこのカフェの店長も兼ねている。毎日遅くまで働いているみたいだし、身体が心配。