「安心・安定」なはずの職場で、疲れ切っている女性たち

美鈴42歳。東京で1人暮らしの独身。都内の大手食品メーカー総務部に勤務。近所の書店で店長を務める真知子は学生時代からの友人。

会社のマネージャーに昇格してからというもの、美鈴の帰宅時間は遅くなる一方。残業を減らしましょうというかけ声のもと、「部下を早く帰すために」自分は今までよりさらに働く日々。

部下や友だちと食事に行く機会はめっきり減り、帰り道に書店に寄って親友の真知子とおしゃべりするのが数少ない楽しみ。以前は休みのたびに旅行へ行っていたけど、いまは2人とも忙しくて会う機会が減っている。

仕事に人生を捧げてしまっているような徒労感。そして親からのプレッシャー。このままだと会社と親に人生を捧げるだけで終わりそう。定年までずっとこんな生活が続くわけ? 

私の未来も暗いけど、それより疲れた顔の真知子が心配。このままでは「長期休養が取れたのは入院したとき」になってしまいそう。

「いっそのこと、そのクレーマーの人、雇っちゃえば?」

「……えっ? どういうこと」

「だから雇って、クレーマー対策に力を貸してもらうんだよ」

幹部の顔ぶれは男性ばかり…ルールがいまだ「男性向け」な日本企業

サラリーマン男性に負けず劣らず、女性もまた疲れています。しかも安心・安定の職場であるはずの大きな企業や公務員、学校の先生などに勤務する皆さんに疲れが目立ちます。これはいったいどういうわけでしょう?

もちろん男女の関係なく、そして年齢にも関係なく、すべての働く人にとって職場が快適であり、自らが成長できる場であるのは望ましいことです。またすべての構成員が自らの能力を発揮し、評価される場であればみんなやる気になります。

しかしながら日本の会社を見ると、その運営ルールがどうも男性に対して有利につくられているように思えてなりません。その証拠に、私が講師でお伺いする大きな組織では、幹部研修や取締役研修に出席されるのはほとんどが男性でした。

ルールが男性向きにつくられているのであれば、女性がそこで出世できず、疲れてしまうのは無理がありません。

「会社は軍隊である」と喝破したベティ・L・ハラガン

そんなことを考えながら、ずっと以前から私は「そもそも会社組織が男性向きなのではないか?」と漠然と考えていたのです。これについて重要なヒントをくれる本がありました。それが『ビジネスゲーム』(ベティ・L・ハラガン著、福沢恵子・水野谷悦子共訳、光文社/知恵の森文庫)です。

アメリカで超ベストセラーの本書、著者が女性目線から「会社は軍隊である」と喝破しています。うすうすそんな気がしていましたが、本書を読んで改めて会社は軍隊的組織だと納得しました。

軍隊は好戦的な男たちが勝利を目的として結成する組織です。会社がその伝統を受け継いでいるとしたら、戦いを好まない女性にとって居心地がいい場所であるはずがありません。そこにいたら女性が疲れるはず。

男と女の性差ですべて説明できる話ではありませんが、男性的気質vs女性的気質と考えればかなり説得力があります。ちなみに私は本書でいうところの女性的気質が強く、「だから自分は組織勤めに向かないのか」と合点しました。

冒頭ストーリーに登場した美鈴さんも、そして友人で書店の店長を務める真知子さんも、仕事にずいぶんストレスを抱えている様子。

もしかしたら彼女たちもまた軍隊的な組織気質になじめないのかもしれません。


田中 靖浩
作家/公認会計士