熾烈な就職活動を突破し、大手企業に入社。仕事が評価されてマネージャーに昇進……こうした“順風満帆なキャリア”を送っていても、実は「疲れ切っている」という女性が少なくありません。これには「日本企業の仕組みが関係している」と、『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)著者で公認会計士の田中靖浩氏はいいます。いったいどういうことか、事例を交えて詳しくみていきましょう。
大手食品メーカーで働く美鈴も、「会社」と「親」に頭を抱える
「あなたのほうはどうなの?」突然ふられても簡単に言葉が出ない。何をどこから説明すればいいのだろう。ひとつだけ確かなのは、家に帰りたくないからここに立ち寄ったってこと。
「仕事はたいへん?」
「う~ん、大変だけど、本屋さんの店長ほどじゃないかな」
でもやっぱり会社の仕事は大変。みんなは「大手は給料が高くていいね」と言うけど、毎晩毎晩遅くまで働いている。おかしなルールのせいで意味のない書類ばかりつくらされ、「何やってるんだろう」と疑問に思う。1度きりの人生、もっとやりがいのある仕事をしたいけど、この会社辞めたら生きていけないし。
“今度はいつ帰ってくるの?”…毎晩のように電話をかけてくる母親に疲弊
暗い気持ちに追い打ちをかけるのが母親のこと。去年入院してから心細くなったようで、毎晩のように電話をかけてくる。お決まりのセリフは「いつ帰ってくるの?」。こんどはいつ帰る? 今週? 来週? 来月? 年末年始は?
独身1人暮らしだからって、毎週毎週、実家に帰れるわけがない。さらにうんざりするのが、お父さんの悪口。家でゴロゴロしている父親の世話に、母は疲れてしまったらしい。病弱でつらいのはわかるのだけど。
そこに最近、さらなるダメ押しが加わった。「私、この家を出てあなたの家に引っ越したいんだけど、どうかな?」この話題が繰り返されるようになって、居留守を使うことが増えた。
母親の電話に居留守を使うまでの顛末。それを聞き終えた真知子が小さくため息をもらし、感慨深げにつぶやく。
「親の介護かあ。私たちもそういう年になったんだね」
2人が大学を卒業してから20年、まだまだ若いつもりだったけど、「親の介護」のことを考える歳だなんて……。
「私たち、この先どうなっちゃうんだろう。考えてもしょうがないけどね」おしゃれなカフェの空間に2人のため息がしずかに溶けていった。