温泉をとことん堪能するなら外せないのが「源泉」巡り。雄大な自然をバックに、ダイナミックに湧き出る源泉は圧巻そのもの。その後入るかけ流しの温泉では、さぞ格別な気分を味わえることでしょう。温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、最高の“源泉巡り”が体験できる名湯4ヵ所を紹介します。
「天然岩盤浴」ができる湯治の名所も
04.玉川温泉(秋田県仙北市)
十和田八幡平国立公園に濃厚な湯煙とともに湧く玉川温泉には2つの日本一があります。
ひとつは一か所の泉源から湧出する源泉量が日本一で、毎分9,000リットルにも及びます。この源泉の湧出口(泉源)を「大噴」といい、源泉名は「大噴源泉」です。二つ目はpH1.05~1.2といわれる日本一の強酸性であること。その強さは鉄、アルミニウムなどの金属をはじめコンクリートのセメントを溶かすほどで、玉川温泉の浴槽はもちろん浴舎も木造です。
玉川温泉は奈良時代末期に焼山西側の中腹から噴火した際の爆裂火口跡に湧く温泉です。その渓谷に探勝遊歩道が整備されており、噴火口跡からすさまじい勢いで噴出する「大噴源泉」を間近に観察できます。「大噴」から噴出した98度の熱湯が幅3メートルもの湯川となって流れる様子はダイナミックそのものです。遊歩道を歩いていると風向きによっては濃い湯煙に包まれ、立ちすくんでしまいます。この蒸気に含まれる温泉成分を吸入すると、気管支系の疾患に良いといわれます。
その日の天候によって微妙に色は変化するようですが、美しいコバルトブルーの源泉が流下する先には、湯の花を採取する木の樋が並んでいます。
「大噴」の先へ進むと、噴気地帯が現れ、療養客が地面に横になり「岩盤浴」をする光景を目の当たりにします。地温が40~50度ぐらいあり、“天然岩盤浴”ができるのです。岩盤浴という言葉は玉川温泉が発祥の地です。近くにテント小屋(無料)が設営されており、そのなかで岩盤浴をすることも可能です。
療養目的で玉川温泉に滞在する人たちは、岩盤浴を毎日2回、1回40分を基本メニューとします。
玉川温泉には微量のラジウムが含まれており、10年間で1ミリメートルずつ石化してわが国唯一の「北投石」(特別天然記念物)となります。世界では他に台湾の台北市郊外の北投温泉だけという貴重な鉱物です。
大噴源泉を引いた大浴場でpH1.2という日本一の強酸性泉の一軒宿「玉川温泉」に浸かってみましょう。手始めに濃度を半分に薄めた浴槽に入り体を慣らします。次に100%の生源泉に浸かります。周りの人は“黙浴”をしています。笑みはありません。療養目的の湯治客が多いこともあるのでしょう。文字通りただ浸かるだけ。体をこすって傷でもつくようなら染みて大変です。手を目にふれてもいけない。
源泉が湧出口から噴き出す様子、それが美しい湯川となって流れる光景を見学し、仕上げにその源泉に浸かる――。これこそ温泉大国・日本ならではの“温泉の流儀”というもの。
松田 忠徳
温泉学者、医学博士