岡崎公園周辺には、京都府立図書館をはじめ、世界各国の様式を取り入れた名建築を目にすることができます。今も残る文明開化の香りを、周辺を散歩することで感じてみましょう。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、見どころを解説します。
京都の「文明開化」は岡崎から始まった
岡崎公園周辺は、武田五一や伊東忠太などそうそうたる建築家が登場する盛りだくさんな場所である。とくに京都市京セラ美術館は見逃せない。外観だけではなく、内部もほぼ竣工当時の姿を守っているのがうれしい。京都府立図書館は解体の危機にあったが、広範な保存運動の結果、外壁だけが保存された幸運な建物である。当時は全体を残して欲しいと強く願っていたが、今考えてみれば外壁だけでもよく残ったものだ。武田五一の最初期の作品のひとつで、ウイーン分離派の香りのする佳品である。
01.土蔵風のレンガ造洋館は必見!山県有朋の別荘「無鄰菴」
地下鉄東山駅から北東方向にある無鄰菴(むりんあん)は、明治時代の政治家山県有朋の別荘である。川治兵衛の作庭で知られ、洋館部分は土蔵造りのような外観だがレンガ造だ。最初、山県は無鄰菴を故郷の山口県で建てた。となりが見えないほど遠かったのでこの名があるという。公開されているので見学しておきたい。庭園に面した和館座敷はカフェとなっている。
02.屋上の八角塔まで“東洋コレクション”!「藤井斉成会有鄰館第一館」
仁王門通りを西へ向かった藤井斉成会有鄰館第一館は、実業家藤井善助の東洋美術のコレクションで有名な美術館で、建物も東洋風にまとめられている。バルコニー下の雲形の片持ち梁や玄関アーチの龍のレリーフなどおもしろい建物だ。少し離れて見れば、この建物が旧島津本社のようにスパニッシュスタイルをベースにしていることがわかる。スパニッシュに東洋趣味を散りばめる自由さが武田らしい。左右対称でないところも武田の作風だ。ちなみに屋上の八角塔も藤井のコレクションのひとつである。
03.ファサード保存された武田五一の最初期の代表作「京都府立図書館」
疏水(そすい)を渡って岡崎公園内ひとつ目は、武田五一の最初期の作品、京都府立図書館だ。図書館の向かいにある京都市京セラ美術館の場所には、元は陳列館と呼ばれる展示施設があり、武田は陳列館と図書館をセットで設計している。どちらもウイーン分離派を思わせる優美な建築だった。白い外壁に金色のラインが入り、まるでウイーンのカールスプラッツ駅のカラーコーディネートと同じだ。ウイーン分離派スタイルは当時の日本の若い建築家の心を捉えたが、とくに武田は当事者たちとの交流もあったためか、終生そのスタイルを大切に使った。
04.和風とモダニズムの融合「京都市京セラ美術館」
図書館向かいの京都市京セラ美術館は、2020年にリニューアルオープンした。改修設計は公募の結果、青木淳と西澤徹夫のふたりの建築家チームの案が採用された。正面玄関前を掘り下げて、新たに地下玄関を設けている。中央の天井の高い展示室をエントランスホールに作り変え、地下から直接上がるようにした。美術館としての機能を上げながら、外観も内装もほぼ昔のままなのがうれしい。正面玄関吹き抜けの天井ステンドグラスも健在である。照明器具も古いものが残っており、見ごたえがある。