岡崎公園周辺には、京都府立図書館をはじめ、世界各国の様式を取り入れた名建築を目にすることができます。今も残る文明開化の香りを、周辺を散歩することで感じてみましょう。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、見どころを解説します。
まだまだある!岡崎公園周辺の名建築
05.近代建築の再生事例「ロームシアター京都」
ロームシアター京都は京都会館に大幅な改修が加えられて本格的なオペラ劇場として2016年に再オープンした。中庭の回廊部分にガラスのカーテンウォールを立てて内部に取り込んだ。ガラス壁を使ったのは、元のデザインがガラス越しに見えるようにしたためだ。
06.コンクリートで表現された和風建築「旧京都市公会堂東館」
ロームシアターの東隣の旧京都市公会堂東館は、大きな屋根や玄関の唐から破風をコンクリートで再現している。滋賀県の旧琵琶湖ホテルもそうだが、この時代には和風をほぼそのままコンクリートで表現できるようになっている。玄関ホールもよく残っているので、見て欲しい。
07.随所に息づく宮中建築「平安神宮」
岡崎公園の中心、平安神宮は、明治時代における和風の本格的な取り組みのひとつだ。ご承知のように、この建物は遷都1100年を記念した博覧会のために大極殿を模して作られたパビリオンで、その後神社に改造された。
左右の特徴的な塔は鼓楼と鐘楼だと思われ、青龍と白虎の名前が付いている。屋根が緑釉瓦なのも好ましい。青や緑は春を寿ぐ色だからだ。左右に腕を伸ばして中庭を抱え込むような平面プランは、宇治の平等院のように龍穴を守るかたちである。龍穴とは気の出入りする大地の穴のことだ。やはり宮中建築の伝統が生かされたのであろう。
08.松室重光の最初期の和風建築「京都市武道センター」
平安神宮の西にある京都市武道センターは、松室重光のほぼ最初期の作品だ。当時の若手の建築家は、最初に和風に取り組むことが多い。伊東忠太の平安神宮、長野宇平治の奈良県庁、武田五一の勧銀本店などだ。まず和風を覚えさせるのが、師である辰野金吾の教育方針だったのかも知れない。
09.今なお現役の小さな発電所「関西電力夷川発電所」
疏水沿いに西へ進むと関西電力夷川(えびすがわ)発電所があるが、この小さな発電所が今も現役だというから驚きだ。しかも1890年に設置された発電機が1992-93年に取り替えられるまで使われたというからなおさら驚く。琵琶湖からやってきた船は、この閘門で水位を下げて鴨川運河へ移ることができる。その閘門を動かす電力を自前でまかなっていたのではなかったろうか。
10.インド様式の不思議模様「旧京都市立新洞小学校」
京阪三条駅に戻る手前のここ旧京都市立新洞小学校もなかなか良い校舎である。外からではよく見えないが、玄関まわりとその上の2本の柱に守られた窓に特徴がある。柱頭部には不思議な模様があるが、これも京都市役所営繕課の得意なインド模様なのだろう。今も大事に使われている校舎を見るのは気持ちがいいものだ。
円満字 洋介
建築家