関西随一の高級住宅街といわれる、兵庫県の芦屋エリアでは、近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトが作り上げた建築をはじめ、欧風の近代的な邸宅が立ち並んでいます。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、芦屋で堪能できる珠玉の名建築を見ていきましょう。
建築と自然の一体感を大切にするフランク・ロイド・ライトの世界観
フランク・ロイド・ライトの作品は自然との一体感を大事にするものが多い。もともと日本びいきで知られているが、おそらく東洋的な自然に寄り添った精神世界に対するあこがれがあるのだろう。樹林に埋もれるように建つこの建築を見ているとそれがよくわかる。
01.山小屋風現役医院「重信医院」
阪急芦屋川駅北口すぐの重信医院は駅前の洋館で、大切に使われてきたことがよくわかる今も現役の医院だ。スイスにでもありそうな山小屋風のデザインである。玄関ポーチのボーダータイルを飾り貼りにした柱や、欄間のステンドグラスなど見所が多い。窓や屋根も竣工当時のままだろう。塀のスクラッチタイルが珍しい。
02.内部も必見。フランク・ロイド・ライトの精神世界「ヨドコウ迎賓館」
芦屋川沿いに北へ向かい、開森橋を渡ってさらに北のヨドコウ迎賓館は、清酒「桜正宗」の醸造元である山邑家の邸宅として建てられたライトの作品である。斜面を昇っていくように建てられている。外壁から屋上を飾る独特の装飾は、メキシコの古代文明マヤの遺跡から着想している。内部は日本建築の良さを応用しており、いたるところに風抜き穴がある。道路側からは何も見えないので、公開日を確認して内部もぜひ見学してほしい。
03.安井武雄のデコ風モダニズム住宅「滴翠美術館」
再び開森橋で芦屋川を渡り、西方向にある滴翠美術館は、大阪のガスビルを作ったころの安井武雄の作品で、山口財閥の山口吉郎兵衛の邸宅として建てられた。戦後、蒐集された美術品とともに美術館として公開されたアールデコ風のモダニズム建築だ。瓦屋根を載せたのは周辺環境への配慮だろう。芦屋川をはさんで旧山邑邸と向き合っている。
04.大正期郊外住宅の典型「旧山田歯科医院」
滴翠美術館から南へ向かい、阪急神戸線を越えたところの旧山田歯科医院は、大正時代の郊外住宅の典形だ。アーチになった玄関ポーチまわりなど、今でも設計の参考になる。屋根は元は瓦屋根だったかも知れない。おもしろいのは窓の上にモルタルで小庇を作っているところで、これも大正期の手法だ。
05.阪神大震災に耐えた免震構造「芦屋仏教会館」
芦屋川沿いにJR神戸線を越えたところにある芦屋仏教会館は、芦屋に住んでいた丸紅の創業者伊藤長兵衛の建てた会館だ。片岡安にしてはあっさりとした設計で珍しい。サッシは取り替えられているが、内外部ともほぼそのまま大切にお使いになっている。驚くことに免震構造になっているそうだが、阪神大震災でそれがどう働いたのか興味がある。