大阪駅前に並ぶビルは、その利便性はもちろん、ひとつひとつが魅力的な建築物でもあります。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、大阪・梅田エリアの名建築を詳しく見ていきましょう。
関西建築界の重鎮・片岡安のヴィンテージ建築から90年代の再開発ビルまで…大阪〈梅田〉エリアを彩る、魅力あふれる名建築10選
魅力あふれる大阪駅前の再開発ビル
大阪駅前の再開発は4つのビルを生み出したが、それぞれ少しずつデザインを変えながら、その実、どれがどれだかわかりにくい。地下街を歩くとなおさらで、暖簾のかかった立ち飲み屋が通路に並ぶ風景は梅田独特のものだ。闇市をなくそうとして、期せずしてアジア的風景を生み出してしまったところがおもしろい。
01.考え抜かれた開発計画「阪急梅田駅」
阪急梅田駅は、タコが自分の足を食べるように駅を後ろに下げて商業スペースを増やした。そのおかげで線路がJRの下をくぐる必要がなくなり、駅の高架化も実現した。大規模な駐車場と搬入口を確保した商業スペースなど、新しい町がひとつ生まれた開発だった。大階段のコンコースから旧コンコースへの大回廊をその町のメインストリートに据えたあたり、計画上の手腕ももっと評価されるべきだろう。
02.茶屋町のシンボルビル「毎日放送本社」
阪急梅田駅北東の毎日放送本社は、前面にミラーガラスを張って忍者のように景色に溶け込んでいる。これは日光を反射させてビルの中へ熱が入るのを低減させるためのガラスだ。大型建築の圧迫感を減らす効果があることから、環境配慮型として一時注目を集めたが、反射光の光害により今はあまり使われない。このビルは先端がMBSのM字をかたどって傾斜している。それと上階のパラボラアンテナ用のへこみとが上手く響き合って、彫刻的な美しさを得ている。
03.建築と造園の見事な連携「梅田センタービル」
梅田センタービルは、建物の中央にエレベータや設備をまとめ、そのまわりを業務空間とするセンターコア式の業務ビルだ。建物も細部にわたり濃密にデザインされているが、計画的には前面のサンクンガーデン(地下広場)が秀逸だ。広場まわりを回廊風にして店舗と小ホールを配置し、その上から桜が枝を下げるあたり、造園と建築のこの上ない連係プレーを見せてくれる。その広場に架かった細い橋がおもしろさの決め手になっている。
04.職人技が光る丸コーナー「北大阪ビルディング」
都島通り沿いの北大阪ビルディングは、60年代ビルの傑作のひとつと考えてよいだろう。尖った敷地に合わせて角を丸くしているところがかっこいい。60年代は難しい丸コーナーをやすやすと仕上げる職人技の生きていた時代でもある。上部の光沢があるグレーのタイル、下部の緑がかったタイルもきれいだ。使っているタイルの質がよいのも60年代ビルの特徴だ。最上階を奥へ引っ込めて、屋上テラスを設けているのもよい。
05.惚れ惚れする角アール「東阪急ビル」
堂山町交差点の東阪急ビル。変形敷地に丸みを帯びた外壁で対応するという考えは上手いと思う。外装が変わっているように見えるがシルエットは昔のままで、ちゃんと角のガラスも丸くしているあたり芸が細かい。1階部分に茶色い釉薬タイルが残っていて、何気ないけどきれいだなといつも見とれてしまう。実は60年代くらいまでのタイルには1枚1枚手づくり感のある良いものがあるのだ。