歴史的な建物の正しい修理を考えてみる

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真1】京都大学 YMCA 会館 出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

古い建物を改修する方法はたくさんある。建物の傷み具合や予算や工期に合わせて柔軟に取り組む必要がある。もっとも大事なのは、すべてを新しくしてしまわないことだ。いい具合に古びていくことをエイジングというが、それは自然の働きだけでなく、建物を守ってきた幾人もの先人の考えや思いでできあがっている。それを尊重することが1番大切なことだと思う。

誇らしげな大アーチ

京大を中心としたルートは、京阪神宮丸太町駅からスタートだ。旧京都織物会社の事務所棟を兼ねる、まるで凱旋門のような大きなアーチの門である。この工場は、京都の伝統産業の近代化のために誘致された本格的な近代工場だった。その誇らしさを大アーチは示しているのだろう。鴨川に向かって開かれたこの門は、かつては通りからよく見えたが、今では前に別の建物が建ち、通りからまったく見えないのが残念だ。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真2】京都大学 東南アジア研究所
(旧京都織物会社 本館)
1889年 日本土木会社(推定)
京都市左京区吉田下阿達町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

大倉の最初期アールデコ

近衛通りを東へ進み、京都大学附属病院旧産婦人科病棟が次の目的地だ。大倉三郎の最初期の作品のひとつが大阪の生駒ビルヂングだが、それと感じが似ている。生駒ビルヂングが1930年、これが1931年、どちらもアールデコといえるだろう。ダイナミックな曲線の玄関庇を黄色い大判タイルの円柱が支え、まるでリゾートホテルのエントランスのような玄関まわりだ。水平ラインが通るのがモダンでかっこいい。玄関脇の照明を壁のなかに仕込んでいるのもうまい。船のブリッジのようなコーナーの連続窓も巧みである。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真3】京都大学附属病院 旧産婦人科病棟
1931年 大倉三郎
京都市左京区吉田橘町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

清新なデザインのレンガ造

近衛通りをはさんで北側の京都大学旧医学部生理学教室研究室は、山本治兵衛と永瀬狂三の手によるものだ。山本は銀座レンガ街を手がけた旧幕府系の棟梁立川知方に入門し建築を覚えたらしい。作品としては奈良女子大学本館が有名だろう。この建物の簡略化されたディテールや三角の屋根窓に半円のガラリ窓を組み合わせた清新なデザインも山本のものと考えてよいだろう。永瀬は武田や片岡によく似たセセッションスタイルが持ち味だ。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真4】京都大学 医学部I棟
(旧医学部生理学教室研究室) 
1914年 山本治兵衛、永瀬狂三
京都市左京区吉田橘町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

自由自在のレンガ造

となりの旧医学部解剖学教室本館は、焼き過ぎレンガと石材をうまく使って壁面を飾っている。山本のデザインは堅実なだけではなく、華やかさも持ち合わせているようだ。窓台がレンガ壁からほとんど突きだしていないため、陰影が薄く軽やかな壁面になっている。また、窓まわりのレンガの角を斜めに面取りすることで、シャープな陰影が出ることを防いでいる。こうした大胆なデザイン手法を彼はどこで覚えたのだろうか。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真5】京都大学 医学部 医学図書館
(旧医学部解剖学教室本館)
1902年 山本治兵衛
京都市左京区吉田橘町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

実直な洋風木造教室

旧医学部解剖学教室講堂は、山本の実直さがよくわかる建築である。洋風建築はガラス窓の大きさで決まる。少し縦長のガラス板の大きさは決まっていて、その倍数で窓の大きさを決める。窓の高さに合わせて下見板をぴったりと割り付けている。1階の窓上には雨よけのための小さな庇を取り付けているのも行き届いた配慮だ。外からは全くわからないが、この講堂は階段教室で、2階に見える窓は教室の上段にあたるのだ。そんな難しい設計条件をぴったり納めて、なおかつこれ見よがしなところがないところがえらい。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋【写真6】京都大学 医学部 
基礎医学記念講堂・医学部資料館
(旧医学部 解剖学教室講堂)
1902年 山本治兵衛
京都市左京区吉田橘町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋