京都観光で多くの人が訪れる祇園には、花街の華やかさだけでなく、近代建築で評価されるべきものも多くあります。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、京都観光により深みを与える祇園界隈の近代建築を見ていきましょう。
実は“味のある名建築”の宝庫だった!…京都を代表する繁華街「祇園」界隈で“一見の価値あり”な近代建築10選【建築家が解説】
祇園界隈の花街で近代建築を探す
東山は祇園祭の主神を祀まつる八坂神社が残るように、古代からの霊地だったようだ。花街の発生も、御霊を鎮めるための歌舞音曲に起源をもとめる考えもある。わたしもそう思う。古い劇場や花街が残るのもそのためだろう。坂の多いこの土地を歩いていると、近代建築のほかにもさまざまな遺跡と出会うことになる。
01.表現主義的な流線型が特徴の「レストラン菊水」
川端通りと四条通りの角のレストラン菊水は、対岸の東華菜館と前後して竣工し、四条大橋の両端を飾っている。オルブリヒの成婚記念塔に比べられることが多いが、わたしは山田守に見られるような表現主義的な流線型が特徴だと思う。角が三角形平面の出窓になっているところがおもしろいし、壁面に仮面風のレリーフが並んでいるところを見てほしい。
02.きらびやかな桃山風ファサードが美しい「南座」
向かいの南座は解体予定だったが、各界からの保存要望が高かったため外壁を中心に保存された。金物を復元したために以前よりもきらびやかになったが、このほうが当初の姿に近いだろう。桃山風とはこうしたもので、照明器具が丁寧に復元されているところも見どころだ。
03.最初期の近代和風公園「円山公園」
四条通りの突き当り、八坂神社の東側の円山公園は、建築家武田五一が設計し、造園家小川治兵衛が施工した。基本プランを武田が示し、造園家の小川が具体化したのだろうか。ふたりの分担は判然としないが、最初期の近代和風公園の作例のひとつであることは確かだ。池の山側に也阿弥ホテルがあったが長楽館竣工直後に焼失し、停滞していた公園整備が一気に進んだ。
04.タバコ王・村井家の迎賓館「長楽館」
山公園の奥の長楽館は、タバコ王村井吉兵衛の元別邸で、正調なルネサンス様式だ。玄関が小ぶりで上品にまとまっているため、これ見よがしなところがなくアットホームに仕上がっている。北側に有名な円山公園の桜を望むことができ、当初から公園を意識していたように見える。内部には茶室や桃山風の大広間を備えており、村井家の迎賓館として機能した。現在はカフェやレストランとして利用できる。