家族が認知症になったらどのように接したらいいのでしょうか? 理学療法士の川畑智氏による著書『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)では、伝え方や接し方がまとめられています。まずは、その会話術からご紹介しましょう。
不安に寄り添う「5つの会話術」
認知症の方とのコミュニケーションは、簡単ではありません。
同じことを繰り返し聞かれたり、何度言っても話を理解されなかったり、「もう、どげんすればいいのかわかりません!」と苦しさを打ち明けてこられるご家族の気持ちは、よくわかります。
でも、同じことを何度も聞いてしまうのは、記憶に障害が起きているためです。
話を理解できないのは、言葉に関する脳の領域が衰え、「失語」の症状が出ているためです。
そして、自分に起きている異変に気づき、失敗を繰り返す自分を、ご本人が1番情けなく、悲しく感じていることが少なくありません。
どうか、その不安に寄り添う気持ちを忘れないでください。
とはいえ、ただ「寄り添う」と言っても、難しいこともありますよね。
じつは、この「寄り添う」という行為は、気持ちの問題であると同時に、ものすごく技術的な問題でもあります。
そこで、私がいつも認知症の方との会話で大切にしているのが、次の「5つの会話術」です。
2.相づちを打つ
3.オウム返しをする
4.まとめる・要約する・ゆっくり打ち返す
5.褒める
1うなずくと2相づちを打つは、セットで対応するよう習慣づけます。
認知症の方がなにかを話し出したら、正面を向いて、やや大きくうなずきながら、同時に「うんうん」と声に出して反応しましょう。
「話を聞いてもらえている」と思えれば、認知症の方もまずは安心できます。
続いて、会話の中に具体的な内容を表す単語が出てきたら、相づちに必ずその単語を交ぜ、3オウム返しをします。
たとえば、「寒い」という単語が出てきた場合は、「あら、寒いんですね!」と、「カーディガンを着たい」と言った場合は「なるほど、カーディガンを着たいんですね!」と、そのまま打ち返すわけです。
相手からの会話がひととおり出切ったところで、4内容をまとめ、要約して、ゆっくり打ち返します。
「○○さん、寒いのでカーディガンを着ましょうね」。こんな具合です。
私(I)の感謝を伝えるか? あなた(YOU)を褒めるか?
そして、最も重要なポイントが5の褒めること。
私は、認知症の人とのコミュニケーションは、「褒ミュニケーション」と呼んでもいいと思っています。お互いがポジティブになれ、晴れ間をつくり出す重要な要素だからです。
褒めるメッセージには、大きく2つの出し方があります。
私(I)が感謝する…… 「ありがとうございます」「助かりました」「私、びっくりしました」「感心しました」「楽しかったです」「勉強になりました」など、「私」が主語になって、感謝や称賛のメッセージを伝える。
相手(YOU)を褒める…… 「すごいですね」「さすがですね」「えらいですね」「立派ですね」「1番ですね」……など、「相手」の能力や行動を褒める。
これらは「Iメッセージ」と「YOUメッセージ」と呼ばれているものですが、相手がどちらを好むかによってメッセージの出し方を決めることが重要です。
これはなにも、認知症に限った話ではありません。
恋愛だって、「かわいいね」と言われたときと、「君といると幸せだ」と言われたときと、どっちがうれしいかは、結局その人次第ですよね。
「この人はどっちのメッセージがハマるんだろう」と普段の会話からつかんでおけば、たくさん “あなた”を褒めてあげるべきなのか、“私”の気持ちをどんどん伝えたほうがいいのか、というふうに分かれていくわけです。
私はいつも、どんな言葉で褒められたときに、最も笑顔が大きくなるのか、声やリアクションが大きくなるかを観察し、心に響く褒め方をメモしています。