家族が認知症になったらどのように接したらいいのでしょうか? 理学療法士の川畑智氏による著書『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)では、伝え方や接し方がまとめられています。まずは、その会話術からご紹介しましょう。
いい褒め方と、悪い褒め方
ところが、褒めることは案外難しいことでもあります。
ついクセになってしまい、なんでもかんでも「すごい、すごい」と褒めがちです。
服を着ることができた、トイレをうまく済ませられたというようなことをむやみに褒められると、逆に「これくらいのことを大げさに褒めるなんて、バカにしているの?」と、不快に思われることもあります。
褒めるメッセージの出し方を間違えると、「全然褒められていない」「私のことをわかってくれない」となってしまう。
言われたほうは「私は子どもじゃない!」となってしまうわけです。
想像してみてください。大の大人であるあなたが、小学生にかけるような褒め言葉を浴びせられたら、むしろ腹が立ちますよね。
私たちはつい忘れてしまいがちですが、認知症の人は、できないこと、苦手なことが増えていくだけで、豊かな感情はしっかりと保たれています。
認知症である前に「大人」なのです。
単に褒めるだけでなく、普段その人が、どうやって他人を褒めているかを観察することも大事です。人は、自分自身が言われて嬉しいと感じる言葉を、相手に対して無意識的に使うことが多いのです。
ですから、本人の口から出てきた「褒め言葉」を使って褒めてみましょう。
先日、86歳の佐藤さんがきれいな折り鶴を折ったので、私はつい短絡的に「すごいですね!」と言ってしまいました。
すると佐藤さんは、「なにもすごくないわよ」と不機嫌になり、私はすっかり嫌われてしまったのです。
そこで私は、佐藤さんがなにかを気に入ると、いつも「素敵ね」と言っているのに気づき、次に折り鶴を折ったときは、「素敵ですね」と言ってみました。
すると佐藤さんは、にっこりと笑い「あら、ありがとう。あなたにあげるわ」と言って、私に折り鶴をくれました。
川畑 智
理学療法士