相手を不安にさせる話し方

「脳いきいき教室」という、脳の健康を保つ市町村事業での話です。

2人1組で頭の体操を進めていくのですが、80代の大森さんは、先に進むことができません。「どこかわからないところがありましたか?」と聞くと、「わからないのではないけれど、もう一度教えてもらってもいいかしら」と言います。

「もちろんです」と答え、最初から説明しましたが、それでもぽかんとした様子です。そして私に、困ったようにこう言いました。

「あなたの言葉は聞こえているけれど、まだ頭に届いていないのよ」

話を理解できないとき、大抵の方は「聞こえないの」「よく聞き取れないわ」という言い方をします。

大森さんのように、「頭に届かない」と正確な表現で伝えてくださる方は滅多にいません。その言葉は、認知症の人と会話をするうえで、私に大きなヒントを与えてくれました。

「言葉は確実に聞こえているのに、頭に届いていない」ということは、聞き取り(リスニング)を担う脳の側頭葉にしっかり情報が届いていないということです。

理解しにくい英単語や専門用語を使いながら、速い会話スピードで話しかけられたシーンを想像してみてください。

単語の意味を一生懸命に考えている間に、話はどんどん先に進んでしまい、なにがなんだかわからなくなってしまう。認知症の人の頭の中では、普段の会話でこのような状態になってしまうことがあります。

そのときの大森さんが、まさにその状態でした。

たとえば、認知症の人に、次のように話しかけたとします。

「血圧を測ってからお風呂に入りましょう。それが終わったらお昼ご飯です。今日は焼き魚ですよ。午後のリハビリのためにしっかり食べてくださいね。夕方には自宅まで送りますので、安心してください」

これだと、明らかに情報過多。

目の前を、突然16両編成の新幹線が通り抜けたようなものです。

「ごめん、もう一度最初から話してくれる?」

「ですから、血圧を測ってお風呂に入って、そのあとにご飯とリハビリで……」

「私は、なにをしたらいいの? どうすればいいの?」

こんなやりとりが延々と続くと、どんどん雲行きが怪しくなっていきます。