ある日手元に届いた「年金の支給停止」の通知に絶句

野田武さん(仮名・66歳)は、地元の総合建設業の作業員として、高校卒業後の18歳から勤務を続け、65歳を過ぎてからは年金を受給しながら働いています。

会社の定年退職の年齢は65歳ですが、深刻な人手不足のなか、野田さんのように長年のキャリアがあり、若手の育成にも携わることができる人材は、会社にとって非常に貴重な存在です。そのため、社長から直々に頼まれた野田さんは、定年後も会社に残ることにしたのでした。

仕事にやりがいを持って働いていた野田さんでしたが、老後のお金には不安がありました。そこで、頑張って働けば老後も楽になるだろうと思い、定年後もがんばって働くことにしたのでした。

そんな野田さんに、ある日、年金機構から「年金の支給停止」の通知が届きました。その通知に目を通し、思わず言葉を失う野田さん。そこには「年間で66万円分の年金が支給停止される」という内容が書かれていたのです。

「長年働いて、毎月厚生年金保険料を納めてきたのに、なぜ支給停止されなければならないのか」…納得のいかない野田さんは、年金事務所に連絡し、その理由を確かめることにしたのでした。

なぜ野田さんの年金は支給停止になったのか?

年金事務所にその理由を聞きに言った野田さんが担当者から聞かされたのは、公的年金を受け取りながら給与を受け取っていると、「在職老齢年金」という仕組みで公的年金がカットされるという説明でした。

私たちが受け取ることができる公的年金は「2階建て」の仕組みになっていて、全員が受給できる「基礎年金部分」に加えて、会社員、会社役員、公務員は「厚生年金部分」を上乗せで受け取ることができ、現行制度では、いずれも原則として65歳になったときに受け取ることができます。

在職老齢年金は、厚生年金部分の基本月額と、総報酬額(諸手当を合わせた年収の月の平均額)を合計して48万円を超えると、超えた分の半分がカットされる制度のことです。言葉のイメージとしては「上乗せでもらえる年金」のように思われがちですが、実際には、その反対に65歳以降も働いていると厚生年金がカットされてしまうという仕組みなのです。

野田さんは、定年退職になるはずの65歳でも現役のころと変わらない収入があり、月給は50万円を超えていました。厚生年金は年間で約110万円を受け取ることができたはずが、在職老齢年金の制度のため、下記のような計算式で、その年金額の多くを削減されてしまったのです。

計算式:月収約50万円+厚生年金部分の月額約9万円ー48万円)÷2=約5.5万円(支給停止額)

この計算により、野田さんの年金は年間で約66万円が支給停止となってしまったのでした。

公的年金を受給できる65歳になっても現役世代と同様に給与収入がある場合、野田さんのように厚生年金が減額されてしまうケースがあるため注意が必要です。