糖尿病を防ぐには、脂肪を落とすことが重要です。糖尿病の予備軍である境界型糖尿病に加え、脂肪肝と診断された広人さん(仮名)との会話を通して食習慣を見直しながら、落とすべき脂肪について見ていきましょう。尾形哲氏の著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術 予約の取れないスマート外来のメソッド』(KADOKAWA)より、実際のエピソードとともに糖尿病を発症しやすくする習慣について解説します。
体を労わってしたことが「糖尿病」の原因に!?…「肝臓脂肪」と「糖尿病」の切っても切り離せない関係とは【専門医が解説】
糖尿病の原因になっていたドリンク
「ところで、毎日暑いですねぇ。さすがに、冷房なしでは寝られないですよね」
「はい。外回りが多いので、熱中症も心配で……」
「それは大変ですね。水分補給に何を飲んでいます?」
「かなり汗っかきなので、スポーツドリンクを毎日飲んでいます。塩分も含まれていて熱中症予防になると聞いています」
「ちなみにスポーツドリンクはどれくらい飲みますか?」
「500mlのペットボトルで2本は飲んでいますかね……」
「なるほど。広人さんは、コーヒーにシュガースティックを20本入れる人ですね」
「20本!? そんなに入れませんよ。コーヒーはブラックでも大丈夫です」
「早速、広人さんの高血糖の原因の1つが見つかりましたよ」
「…………」
「血糖値を上げるのは糖質を摂取したときですが、要は砂糖です。スポーツドリンク500mlには、糖質が30g以上含まれているものがあります。シュガースティックに換算すると10本分になります。だから、広人さんの場合は、1日で20本分です」
「…………」
「しかも、飲料だと一気飲みをすることも多いし、血糖値にダイレクトに反映されやすい。血糖値スパイクの温床と言えます。きちんと食事がとれていれば、麦茶で十分なんですよ」
「そんなに甘さを感じていなかったので、かなり衝撃を受けています」
「いつも食べている、飲んでいるものについて正しく知ることは、高血糖も脂肪肝も改善する重要な助けになりますよ」
「先生、塩分についてはどうなんでしょう?」
「スポーツドリンク500mlには、塩分が0.6g程度含まれていて、たくあん2枚分に相当します。よほど発汗が多いときには、麦茶に漬け物を少々加えればいいだけの話。余計な糖質を摂る必要はありません」
「水なら飲んでいいですか?」
「もちろん。血糖値を一定に保つためにも、こまめに水分補給をすることは大事です。ただし、水かお茶かブラックコーヒー限定です」
「先生、エナジードリンクを飲むのもだめですか?」
「人間、だめって言われるとつらくなるからだめとは言いません。でも、この事実を伝えます。カルガリー大学の研究チームの報告によれば、カフェインを含むエナジードリンクとカフェインなしドリンクを比較すると、カフェインを含むエナジードリンクを飲んだ群は、飲料後の血糖値が24.6%高かったそうですよ。もちろん糖質も含まれています。眠気ざましなどでカフェインを摂りたいなら、ブラックコーヒーで十分でしょう。それでも、エナジードリンクを飲みますか?」
スポーツドリンクもエナジードリンクも好きだ。でも、体のためと思って飲んでいたところもある。それが、かえって体に負担をかけていた。言葉を失った。
「スポーツドリンクもエナジードリンクも、脳がおいしいと感じるように味が調整されています。企業努力の賜物ですね。でも、その戦略にはまってしまうと、将来の健康を犠牲にしかねないということが伝わったでしょうか」
「……はい」
「今日はここまでにしましょう。次回、もう一度、2週間後くらいにお目にかかれますか? そのときに当面の目標と食事の仕方について、さらに詳しく検討していきましょう。ちなみに広人さんは、毎食、自分で食べるものを選んでいますか?」
「朝と夜は妻が作ってくれます。昼は外食で麺類が多いです」
「そうですか。改善できることがまだありそうですね。であれば、奥さんもご一緒に来てもらえるといいですね」
「実は今、妻は妊娠中で……」
「それはそれは。なら、もちろんムリは禁物です。奥さんに話をしてもらってから、来院日の相談をしましょう。お子さんのためにも、パパは健康でいないとですね」
「今日は、ありがとうございました」
お礼を伝えて病院を出た。外はやっぱり暑い。
自動販売機でミネラルウォーターを1本購入し、喉の渇きを潤した。頭は少しふわふわしていたが、いろんなことが腑に落ちた。妻に何から話そうか。
砂糖水を毎日飲むと効率よく脂肪肝になる。スポーツドリンクはまぎれもない砂糖水。
尾形哲
長野県佐久市立国保浅間総合病院
外科部長/「スマート外来」担当医