糖尿病の原因になっていたドリンク

「ところで、毎日暑いですねぇ。さすがに、冷房なしでは寝られないですよね」

「はい。外回りが多いので、熱中症も心配で……」

「それは大変ですね。水分補給に何を飲んでいます?」

「かなり汗っかきなので、スポーツドリンクを毎日飲んでいます。塩分も含まれていて熱中症予防になると聞いています」

「ちなみにスポーツドリンクはどれくらい飲みますか?」

「500mlのペットボトルで2本は飲んでいますかね……」

「なるほど。広人さんは、コーヒーにシュガースティックを20本入れる人ですね」

「20本!? そんなに入れませんよ。コーヒーはブラックでも大丈夫です」

「早速、広人さんの高血糖の原因の1つが見つかりましたよ」

「…………」

「血糖値を上げるのは糖質を摂取したときですが、要は砂糖です。スポーツドリンク500mlには、糖質が30g以上含まれているものがありますシュガースティックに換算すると10本分になります。だから、広人さんの場合は、1日で20本分です」

「…………」

「しかも、飲料だと一気飲みをすることも多いし、血糖値にダイレクトに反映されやすい。血糖値スパイクの温床と言えます。きちんと食事がとれていれば、麦茶で十分なんですよ」

「そんなに甘さを感じていなかったので、かなり衝撃を受けています」

「いつも食べている、飲んでいるものについて正しく知ることは、高血糖も脂肪肝も改善する重要な助けになりますよ」

「先生、塩分についてはどうなんでしょう?」

「スポーツドリンク500mlには、塩分が0.6g程度含まれていて、たくあん2枚分に相当します。よほど発汗が多いときには、麦茶に漬け物を少々加えればいいだけの話。余計な糖質を摂る必要はありません」

「水なら飲んでいいですか?」

「もちろん。血糖値を一定に保つためにも、こまめに水分補給をすることは大事です。ただし、水かお茶かブラックコーヒー限定です」

「先生、エナジードリンクを飲むのもだめですか?」

「人間、だめって言われるとつらくなるからだめとは言いません。でも、この事実を伝えます。カルガリー大学の研究チームの報告によれば、カフェインを含むエナジードリンクとカフェインなしドリンクを比較すると、カフェインを含むエナジードリンクを飲んだ群は、飲料後の血糖値が24.6%高かったそうですよ。もちろん糖質も含まれています。眠気ざましなどでカフェインを摂りたいなら、ブラックコーヒーで十分でしょう。それでも、エナジードリンクを飲みますか?」

スポーツドリンクもエナジードリンクも好きだ。でも、体のためと思って飲んでいたところもある。それが、かえって体に負担をかけていた。言葉を失った。

「スポーツドリンクもエナジードリンクも、脳がおいしいと感じるように味が調整されています。企業努力の賜物ですね。でも、その戦略にはまってしまうと、将来の健康を犠牲にしかねないということが伝わったでしょうか」

「……はい」

「今日はここまでにしましょう。次回、もう一度、2週間後くらいにお目にかかれますか? そのときに当面の目標と食事の仕方について、さらに詳しく検討していきましょう。ちなみに広人さんは、毎食、自分で食べるものを選んでいますか?」

「朝と夜は妻が作ってくれます。昼は外食で麺類が多いです」

「そうですか。改善できることがまだありそうですね。であれば、奥さんもご一緒に来てもらえるといいですね」

「実は今、妻は妊娠中で……」

「それはそれは。なら、もちろんムリは禁物です。奥さんに話をしてもらってから、来院日の相談をしましょう。お子さんのためにも、パパは健康でいないとですね」

「今日は、ありがとうございました」

お礼を伝えて病院を出た。外はやっぱり暑い。

自動販売機でミネラルウォーターを1本購入し、喉の渇きを潤した。頭は少しふわふわしていたが、いろんなことが腑に落ちた。妻に何から話そうか。

<先生からの処方箋>

砂糖水を毎日飲むと効率よく脂肪肝になる。スポーツドリンクはまぎれもない砂糖水。

尾形哲


長野県佐久市立国保浅間総合病院


外科部長/「スマート外来」担当医