誰しもが直面する加齢について「実年齢よりも主観的な年齢が大切」であると、心理学者の内藤誼人氏はいいます。健康に過ごすためにはどのような心がけが重要なのでしょうか。内藤氏の著書『老いを楽しむ心理学』(ワニブックス)より、老後に向き合う考え方のヒントについて見ていきましょう。
「心の持ちよう」で身体は大きく変わる!?老化を食い止める大切な“思い込み”とは【心理学者が解説】
家事や日常作業で健康になる秘訣
毎日、どんな作業をするにしても、「これは、健康によい!」と思い込みながら作業をするといいですよ。
庭の草むしりでも、部屋の掃除でも、犬の散歩でも、何でもです。
本人がそう思い込みながら作業をしていると、本当に健康になっていきます。
米国ハーバード大学のアリア・クラムは、84名のホテルで働く従業員を対象に、44名には次のような話をしました。
「みなさんのやっている清掃業務は、とてもよい運動になっていて、医者のすすめるアクティブ・ライフスタイルとしても十分に満足のいくものなのです」
残りの40名にはこの話はしませんでした。
それから4週間後、すべての従業員を対象に血圧を測定してみると、「清掃業務は健康によい」という思い込みを持たされたグループでは、実験前には最高血圧が129.55、最低血圧が79.55だったのですが、4週間後には111.9と74.88と下がりました。比較のためのコントロール条件では実験前は12.77と7.80で、4週間後は12.27と75.03でほとんど変化はありません(図表)。
また「清掃は健康によい」と教えられたグループの従業員は、体重も減り、ウエストも細くなりました。
まったく同じ業務をしていても、「私の仕事は健康によいのだ」と思いながら取り組んだら、本当に健康になってしまったのです。
思い込みの効果というのはまことに驚くべき力を持っているといえます。
料理や洗濯など日常生活で何かをするのなら、「健康によさそう」と思いながら試してみてはどうでしょうか。本人が「健康によい」と思いながらつづけると、何でも効果が現れやすくなる傾向がありますよ。
まったく効能などない、砂糖やでんぷんを丸めて固めただけのインチキな薬でも、本人が「効く」と思いながら服用すると、薬効が見られてしまうという現象があります。これを「プラシボ効果」と呼ぶのですが、日常の作業についても同じようなプラシボ効果が見られるといってよいのかもしれません。
自宅の1階から2階にただ移動するだけでさえ、「階段を使っているのだから、心肺機能を鍛えるトレーニングになっているはず!」と思い込めば、本当に心肺機能を鍛えることができるかもしれません。