京都大学は数多くの名建築を有しています。京都大学を中心に建築家の大倉三郎による建築物を見ていきましょう。おさんぽしながら見ることのできる名建築を、著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、円満字洋介氏が解説します。
京都出身の建築家大倉三郎を京大で探す
大倉三郎を楽しむルートである。大倉は1900年京都市生まれで、1923年京大建築学科を第1期生として卒業した。武田五一の愛弟子のひとりである。卒後大阪の宗建築事務所に勤めるが、1928年に京大に呼び戻され京大営繕課の主力メンバーとして武田とともにキャンパス整備にあたった。京都工芸繊維大学学長、西日本工業大学学長を務め、1983年に逝去している。
瀟洒な白亜の建築
京阪出町柳駅から東へ、百万遍交差点を南の関西日仏学館は、瀟洒という言葉がぴったりの建物だ。列柱で立面を縦に分割してリズムを作りだし、庇や出窓を柔らかいカーブで処理して優しい印象に仕上げている。清楚な白をまとい、トップに控えめにアールデコ文字で館名を入れている。上品な大人のデザインといえよう。
思いをつなぐ連係プレー
東一条通りを東へ向かうと、大倉三郎ワールドのはじまりである。
ここ京都大学保健診療所は何度見てもおもしろい。先にあるものを尊重しながら継ぎ足していった楽しさにあふれる。最初に建ったのは正面の入り口アーチ部分で、これは武田と永瀬狂三が設計している。その後、今はカフェに使っている東側の車庫と外部階段のある西側を大倉と内藤資忠で増築した。そのとき外装をスクラッチタイルに統一して、アーチあり、階段ありの、さながら中世都市の一角のような場所ができあがった。
京大最初期のレンガ造
保健診療所のとなりの国際交流セミナーハウスは、よく見ると1階と2階でレンガの色が違う。後で2階を継ぎ足しているからだ。レンガ造は増改築が簡単であることが特徴である。この美しい壁面でおもしろいのは1階の窓の上にアーチが埋め込まれていることだ。窓上は石で補強されているが、さらにその上をアーチで補強している。それは補強であると同時に装飾でもある。最初から2階の増築を見込んだ上での補強だったのかも知れない。
これが武田の黄金比
正門正面の百周年時計台記念館は、免震化されたことでも有名だ。武田の代表作だが、弟子たちが総出で手伝ったので、どこが武田なのかよくわからなくなっている。それでもこれだという部分はもちろんある。
まず平面的には、規則正しい黄金比で構成されていて、その比率は建物前の広場にまで及んでいる。次に塔が控えめであること。
あとひとつは鯉のぼりの棹に見える左右の壁面の風車模様だ。鯉は滝を登って龍になるという。ここが学生のための登竜門だという洒落なのかも知れない。