(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックのドクターは、診療の現場に立つのはもちろん、スタッフをまとめ、経営の責任も負っており、多忙と重責でストレス過多になることもしばしばです。しかし、心身のゆとりを失うと、ついイライラしてしまいがち。そんなドクターに知ってもらいたいのが「アンガーマネジメント」です。どのようなものでしょうか?本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

目指すのは「怒らなくなる」ことではなくて…

「アンガーマネジメント」とは、1970年代にアメリカで生まれた、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。

 

アンガーマネジメントと聞くと、「怒ってはいけないのか?」「怒りを止めなければならないのか?」と思う方が多いのですが、アンガーマネジメントでは怒ることそのものは否定しません。

 

目指すのは「怒らなくなる」ことではなく、「怒る必要のあることは上手に怒る」「怒る必要のないことは怒らなくてすむ」ことなのです。

 

アンガーマネジメントでは「怒ってはならない」「怒るのはよくないこと」とは考えません。怒ることは、仕事をするうえで、あるいは生きていくうえで必要なことであり、とても大切なことだからです。

「怒ること」が必要だといえるワケ

では「怒り」はなぜ必要なのでしょうか?

 

怒るのは気分がよくありませんから、できれば怒りたくないとだれもが思っていることでしょう。

 

怒りは、人に備わっている自然な感情です。怒りのない人はいませんし、取り除くこともできません。どんなに穏やかに見える人であっても、怒りの感情は持っています。怒りがない人はこの世にはいません。なぜなら、怒りがないと困るからです。

 

怒りは別名「防衛感情」とも呼ばれています。防衛する、つまり自分を守るために存在する感情なのです。

 

具体的には「自分が大切にしているもの=価値観、立場、仲間、家族、仕事、プライド、考え方」等です。人は、怒ることでそれらの大切なものが失われないよう、侵害されないよう守っているのです。

 

たとえば、あなたに譲れない価値観があったとします。もし、その価値観を踏みにじられるようなことをされたときに、なにもしなければ、大切にしている価値観が踏みにじられてしまいます。そのようなときに、怒ることで抵抗するのです。

 

世の中には、怒ることが苦手な方、怒ることをよしと思っていない方もいます。しかし、そういった方々は、自分が大切に思うものを守れません。

 

大切なものが守れないのですから、仕事でもプライベートでもとても大変で苦しい思いをすることになってしまいます。

怒りが生まれるメカニズム

怒りが生まれるしくみは、ライターを例に説明することができます。

 

ライターは、火打ち石をバチッと回すことで火花が散り、そこにガスを送り込むことで炎が燃え上がるしくみになっています。

 

ライターの炎を怒りに例えると、火打ち石をバチッと回すのは、あなたが持っている「~するべき」「~のようにあるべき」という考え方が裏切られたときです。

 

「マナーは守るべき」「仕事はこうするべき」「患者様にたいしてこうあるべき」…等々、人は実にいろいろな「べき」を持っています。

 

たとえば「マナーは守るべき」と思っている人の前でマナー違反があれば、その人はイラッとして、火打ち石をバチッと回すことになるのです。

 

火打ち石がバチッと回っただけでは炎は燃え上がりません。炎を燃え上がらせるためには燃料となるガスが必要です。

 

ガスとなるのは、つらい、苦しい、悲しい、孤独、不安、寂しい、といったマイナスの感情です。または、疲れ、ストレス、睡眠不足、空腹、体が痛い、調子が悪いといったマイナスの状態です。

 

マイナスの感情・状態がたくさんあると、それはガスがたくさんあることになるので、「べき」が裏切られ怒りの火花が散ったとき、大きな怒りの炎が燃え上がります。

 

逆に、マイナスの感情・状態があまりないとき、平たくいえば、機嫌がよく調子がいいときであれば、「べき」が裏切られ怒りの火花が散ったとしても、そこまで気にならないのです。

「自分の気持ちを記録する」ところからスタート

アンガーマネジメントはトレーニングです。理屈を覚え、練習を繰り返すことで上達します。「怒らないで頑張ろう」とか「人の器が大きくなれば怒らなくなる」といった心構えや精神論ではありません。

 

では、具体的にはどのようなことを行えばよいのでしょうか?

 

今日から取り組んでいただきたいのは「自分の気持ちの記録をつける」ことです。怒りはもちろん、嬉しい、楽しい、悲しい、虚しい、面白い、微笑ましい、悪い、後悔などなど、私達はいろいろな感情を持ちます。常に何かしらの感情を持っています。

 

しかしこれらの感情は、意識しないとどんどん流れ去り、気づくことができません。また、もし気づいたとしても、そこから何かを学び、次に活かそうという発想にはなりません。

 

自分の感情と上手に付き合うことも、トレーニングで上達する「技術」のひとつなのです。たとえば、プロのアスリートなら練習ノートをつけ、自分のなにが悪かったのか、次からどうすればよくなるのかを考え、取り組みます。

 

それと同様に、自分の気持ちと上手に付き合うための「練習ノート」を作るのです。

 

まずは「アンガーログ」といって、怒りの気持ちを書き留めることからはじめてみましょう。記録する方法は簡単です。イラッとしたり、頭にきたりしたときに、その場でさっとその時の気持ちを書き留めるだけです。

 

ノートでも、スマホでも、記録をつける方法はなんでも構いません。理由や分析などは一切必要ありません。素直にその時の気持ちを書くだけでOKです。

 

この作業は「リフレクション」とも呼ばれます。自分自身を鏡で写す作業です。このことを続けることで、徐々に自分が本当のところ何を怒っているのか、何を大切にしようとしているのか見えてくるでしょう。

 

具体的なコントロール術については、記事『《アンガーマネジメント実践編》勤勉なドクターは要注意…「こうあるべき」という思考が及ぼす、自他への恐ろしい影響』でご紹介していますので、ぜひ参照してみてください。

 

 

安藤 俊介
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事 アンガーマネジメントコンサルタント
新潟産業大学客員教授