「ぬる湯」のススメ

気象庁では最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と呼んでいますが、40度前後の猛暑日がふえるにつれ、「酷暑日」という言葉まで耳にすることがあります。

かつては「暑い夏こそ、熱いラーメンを食べて乗り切ろう」などと、元気のいい日本人は多かったものですが、涼しいといわれる北海道でも一般家庭でエアコンの使用が珍しくなくなった昨今、このような威勢の良い言葉は聞かれなくなっています。

心配なのは食べ物、飲み物を含めて体を冷やす日本人の生活習慣は、免疫力を低下させかねないことです。酷暑を乗り越えるにも、自律神経のバランスを整え、免疫力を高める必要があります。

それにはやはりシャワーではなく、入浴、温泉です。日本は“温泉大国”といわれるだけあって、泉質だけでなく湯温もじつにバラエティーに富んでいます。夏は「あつ湯」に入らなくても、むしろ「ぬる湯」で十分です。“夏温泉”がまさにぬる湯です。

暑い日が続く夏は自律神経が乱れがちで、ぬる湯で長湯を楽しみながら“リラックスの神経”副交感神経を優位にします。副交感神経が優位になると、免疫細胞である白血球中のリンパ球が活性化します。しかも真夏にぬる湯から上がった後の清涼感は、なんとも言えない悦楽そのものです。

熱くも冷たくも感じない日本人の「不感温度」は欧米人より少し高く35~37度ぐらいです。ぬる湯の温度に定義はないのですが、体温に近い36度前後から40度未満と考えてよいでしょう。ただ暑い夏は32~33度程度からでも大丈夫でしょうが、体温が下がると免疫力にも影響を与えかねませんので、温かい温泉と交互浴を心がけるようにしましょう。

私の故郷は、平成20(2008)年7月にサミット(主要国首脳会議)が開催された北海道の洞爺湖温泉街。もちろん産湯も洞爺湖温泉で、大学に進学するため洞爺湖温泉街を離れるまで、温泉があるのが当たり前の環境で育ちました。ただ洞爺湖温泉の源泉は60度前後の高温泉だったものですから、私の“温泉DNA”があつ湯に適応するようになっていたのは自然の流れでした。

これまでもふれたように、かつて日本人の浸かる湯温は42度前後といわれていました。ですから日本人は世界でも珍しい「高温浴を好む民族」といわれてきたものです。北海道、東北、北陸などの雪国や、海辺の温泉では45度前後で入浴するのはふつうでした。ただ日本人の低体温化とともに、若い世代を中心に42度では熱いと感じる人がふえています。

私はあつ湯で育ちましたが、じつは4、5年前から“ぬる湯派”に転じました。ぬる湯でもレベルの高い温泉では抗酸化力に優れていることを、私どもが検証してきた延べ650名に及ぶ「入浴モニターによる温泉療養効果」の実証実験で、科学的に確認できたからです。しかも高温泉では得られにくいぬる湯のメリットは、美肌効果が顕著だということです。

天然温泉きぬの湯(茨城県)、昼神温泉(長野県)、榊原温泉(三重県)、奥津温泉(岡山県)、俵山温泉(山口県)、古湯温泉(佐賀県)、長湯温泉(大分県)、妙見温泉(鹿児島県)などのぬる湯で、温泉の抗酸化作用による活性酸素の除去、抗酸化力の増強とともに、美肌効果(皮膚の張り、抗酸化力、保湿力など)を確認しました。

写真:PIXTA
【写真】大分県・長湯温泉 写真:PIXTA

皆さんも、夏こそ“ぬる湯温泉”で健康力を高めてみませんか? 温泉の楽しみ方のバリエーションを広げてみてはいかがでしょうか?


松田 忠徳
温泉学者、医学博士