「これまで長いあいだ企業に貢献してきたのだから、別の会社でも通用するだろう」と、早期退職からキャリアアップを試みる人がいます。しかし、転職ではむしろ「大企業での勤務経験がマイナスに作用する」可能性があることはご存じでしょうか。著書『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)より、公認会計士の田中靖浩氏がその理由を解説します。
「経理一筋〇年」でも、転職に失敗するワケ
研修時、“企業側”がランチに誘う日本、“受講者”がランチに誘う外資系
私は数多くの会社にお伺いして企業研修の講師を務めてきました。
日本企業の場合、午前中の講義が終わって昼休みになると、担当の方が私の元へやってきます。「先生、お疲れさまでした。ではランチにまいりましょう」とお店まで案内してくれます。
これが外資系企業に行くと少々様子がちがいます。先ほどまで受講していた生徒が私の元へやってきて「先生、ランチに行きましょう」と誘ってくるのです。
日本企業の受講者が受け身なのに対して、外資系企業の受講者はかなり能動的でアグレッシブ。この差は「転職を考えているか・いないか」のちがいです。外資系の諸君は入社1年目であっても例外なく「転職」を考えています。それゆえ会社の枠を超えて、会計士である私と「個人的に仲良くなろうとする」わけです。
つまり「今の会社を辞めても残る人間関係の構築」に敏感なんですね。彼らはパーティーでも積極的に知らない人と話そうとする。これに対して、「わが社の人間」だけで集まりがちなのが日本企業のサラリーマンです。
大企業での勤務経験が、転職でマイナスに作用する可能性も
これまで日本企業では「1」の社内で使えるスキルを重視してきました。とくに「大」の付く組織でその傾向が強いようです。それは「転職しにくい=時価の低い」人間を育てている面があります。
たとえば、「大企業で経理一筋〇年」のような人物です。経理は「手に職」の代表のように思われていたこともあり早期退職で転職を試みますが、そのチャレンジは失敗に終わることが少なくありません。
そのような人は「大企業で経理一筋〇年」だったがゆえに転職を失敗しているのです。残念なことに転職市場において「会社の色が付きすぎた」経理マンは敬遠されます。口グセのように「前職では……」と語る方はそれだけで「色が付きすぎ」と判断されます。
昔とはちがい、大組織での勤務経験はマイナスに作用することがあることは知っておきましょう。
経理職の転職市場でいえば、転職の上限は30歳、現在のように人手不足であっても35歳がギリギリです。高齢の経理職は「年配者はDXITに対応しにくい」そして「ベテランは若い人とチームを組むのが苦手」という先入観によっても敬遠されます。結論として経理のベテランの転職は極めて難しいのが現状です。