腸活のブームで腸内フローラという言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。腸内で活動している「腸内細菌」の分布を指す言葉ですが、腸内環境とヒトの健康状態は密接に関わっています。そこで本稿では、長年腸内細菌を研究し続けている医学博士の内藤裕二氏による著書『70歳からの腸活』(エクスナレッジ)から一部抜粋して、健康な老後を支えてくれる「腸内細菌」の働きについて解説します。
大切なのは善玉菌VS悪玉菌ではなく、多様性
腸内には善玉菌と悪玉菌が棲んでいて、お互いに勢力争いをしているといわれています。最近では優勢なほうに味方する日和見菌もいるといわれていて、善玉菌が優勢な腸内フローラが健康に影響を与えているというストーリーがよく語られています。しかし腸内細菌の研究ではこのような考え方はしていません。
善玉菌や悪玉菌というイメージはあまりにも有名なので、ご存じの方も多いと思います。代表的な善玉菌といえばビフィズス菌と乳酸菌でしょう。しかし仮に腸内細菌がすべてビフィズス菌だったら長生きできるのかというと、そんなことは絶対に考えられません。
神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科先端医療学分野教授の山下智也先生は、心不全の人の腸にビフィズス菌が多いことを発表しています。
私たちの研究でも、糖尿病の人はビフィズス菌が多いというデータがあります。他にもいくつかあって、意外に病気の人にビフィズス菌が多いという研究発表は多いのです。
ただ誤解しないでほしいのは、ビフィズス菌入りのヨーグルトをたくさん食べると病気になるという意味ではありません。そもそも外から入ってきた細菌がそのまま定着することはないのです。病気とビフィズス菌の関係はまだ解明されていませんが、腸内細菌の宿主(ヒト)の腸があまりにも脆弱なので、それを改善しようとしてビフィズス菌が増えているという説もあります。
ここで私が言いたいのは、「善玉菌や悪玉菌というものは存在しない」ということです。それぞれの細菌はヒトにとってよい働きもするし、悪い働きもします。それはヒトから見た話で、腸内細菌がヒトのためにやっているわけではありません。
むしろ大事なのは腸内細菌の多様性です。人間社会も多様な人がいたほうが社会として成り立ちますね。
例えば人間社会には勤勉な人も怠け者もいます。しかし怠け者といわれている人が、社会にとって何の役にも立っていないかというと、そうではありません。そもそも善玉菌、悪玉菌と同じように、勤勉、怠け者もその人の一面でしかありません。腸内細菌も同じで、いろんな種類の菌がいることによって、ヒトの健康や寿命に影響を与えているのです。
フィンランドに腸内細菌の多様性と寿命について調べた研究があります。ヒトの寿命を15年間追いかけたデータですが、結論だけいうと、15の年後の寿命を予測するには腸内細菌の多様性が大事だということです。
内藤 裕二
京都府立医科大学大学院医学研究科
教授/医学博士