年を重ねるにつれて身体機能も衰え、自宅にいるにもかかわらず、大きな怪我を引き起こしてしまうケースも少なくありません。安心した老後を迎えるためには、「『備える・やりたいリフォーム』で自宅を備えることが大切」と、一級建築士・高橋みちる氏は言います。高橋氏の著書『やらなければいけない一戸建てリフォーム』より、詳しく見ていきましょう。
老後に備えたリフォームを
年を取らない人はいませんね。老いは必ず訪れます。最近は「人生100年時代」とも言われ、長生きを「リスク」と捉える風潮もあります。
しかし、人として1日でも長く生きられるなんて、素晴らしいことですよね? なぜそれがリスクなのでしょう。長生きがリスクになるか幸福になるかは、備えが足りているかどうかにかかっています。備えには、個人の力ではどうにもならない社会的なものもあるかもしれません。しかし、自力でどうにかできるものもたくさんあります。そのうちの一つが、「自宅を備える」ということです。
安心した老後を迎えるために「備える・やりたいリフォーム」で自宅を備える方法を考えていきましょう。
まずは、身体機能の衰えに対する備えについてです。加齢によって筋力が弱まったり、疾病によって手足に障害が残ったりして、身体的な機能が衰えても安心して住み続けられる家にしようということです。私も最近はバランスが悪くなってきたなと感じることがありますが、ちょっと姿勢を崩したときなど、とっさに手すりを握って転倒を防げたという経験がある方は多いと思います。
バリアフリーとはバリア(障壁)をフリー(取り除く)という意味ですが、どのような身体機能になっても、安心して暮らせる家にするということです。そういう意味では断熱リフォームもバリアフリーと言えますが、その他にリフォームでできるバリアフリーにはどのようなものがあるか挙げてみましょう。
1.手すりの設置
先ほどもお話しした通り、バランスを崩したときに頼りになるのが手すりです。家の中では段差を乗り越えるときや、姿勢を変えるときがバランスを崩しやすいところです。
具体的には、玄関の上がり框、階段、掃き出し窓からの出入り、トイレの立ち座り、浴槽に入る際のまたぎなどです。特に、階段の手すりは2000年以降の建物には法律で設置が義務づけられています。階段からの転落は思わぬ大ケガにもつながりますので、付いていない場合は早めの設置をお勧めします。
体の状態によっては廊下や居室にも連続した横手すりが必要になることもありますが、横手すりなら特別な下地補強の工事をしなくても、柱などの構造材を利用して取り付ける方法があります。不要な手すりはかえって邪魔になる場合もあるので、連続手すりは必要になったときに設置するというスタンスで大丈夫です。
手すりの設置はもちろんですが、足を踏み外さないように階段の踏み板にノンスリップ(滑り止め)を付けたり、階段の色を周囲の床材よりも明るい色や濃い色などにして目立たせるなどの配慮も有効です。転倒や転落によって骨折したことがきっかけで、歩行が困難になってしまう場合もあります。ちょっとの配慮で防げる事故も多いので、ご参考にしていただければと思います。
2.床段差の解消
昔のドアは、床に「沓摺」と呼ばれる1~2センチメートルの高さの段差がありました。この程度の段差は健常なときには何も意識しませんが、怪我や障害などが原因となり摺り足で歩くようになると、これが引っ掛かりやすい段差となります。
トイレや和室にも数センチメートルの段差がある場合もありますが、いずれも床のリフォームを行うついでに段差を無くすことができます。段差を乗り越えるという動作は必ずしも悪いことではなく、体力を維持するためにはむしろ段差はあった方がいいという考えもあります。ただ、数センチメートルのわずかな段差は歩行中の転倒の原因となりやすいため、リフォームの際にできるだけ解消しておくと良いでしょう。