人生の長い時間を過ごすことになる「家」。快適に暮らすために欠かせない住宅の性能として「断熱性」が挙げられますが、一級建築士の高橋みちる氏は、「昭和56年以降に建てられた家の90%以上は断熱基準を満たさない水準となっている」と言います。高橋氏の著書『やらなければいけない一戸建てリフォーム』より、日本の住宅の「断熱性」の現状について詳しく見ていきましょう。
わが家の断熱性能は、実際どうなのか?
住宅の断熱性能は目安となる基準が法律で定められており、これまで改正を重ねるたびに基準が引き上げられてきたという歴史があります。つまり、建てられた年代によって、おおよその断熱性能を推測することができるのです。それでは、まずは断熱基準を定めた法律の変遷から見ていきましょう。
住宅の断熱性能は、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下「省エネ法」)によって、1980(昭和55)年に初めて基準が示されました。これにより、まずは床・壁・天井に断熱材を入れるという概念が生まれました。1992(平成4)年の法改正では、断熱性能の強化だけでなく、家全体の隙間をふさぐ気密という概念も新しく生まれました。
そして1999(平成11)年には断熱性能の強化、気密住宅を前提、計画換気や暖房設備などに関する規定も加わりました。その後にも一部改正などを重ねてはいますが、この平成11年基準は「次世代省エネ基準」と呼ばれ、これが現行の断熱基準のベースとなっています。
ちなみに最初に制定された昭和55年基準は「旧省エネ基準」、その後の平成4年基準は「新省エネ基準」と呼ばれ、区別されています。
これらの断熱基準には、残念ながら達成の義務はありませんでした。つまり、皆さんの家が建てられた年代の基準の断熱性能が、皆さんの家に備わっているとは限りません。しかしながら、この断熱基準によって住宅業界全体の断熱性能が引き上げられてきたのも事実なので、それぞれの時代の断熱性能の目安として見ていきましょう。
[図表1]は、昭和55年基準を1とした場合の断熱性能の推移を表したものです。こうしてみると、昭和55年基準から平成4年基準への変更時には大きく変わっていない印象ですが、平成11年基準への変更時に数値が大幅に引き上げられたのがわかります。この平成11年基準が概ね現行の断熱基準ですから、まずはここまで性能を引き上げることが目標と言えます。
では皆さんの家はどうかというと、昭和56年以降に建てられた家の90%以上は平成11年基準を満たさない水準となっています。しかしそれだけでなく、近畿大学の岩前篤教授が行なった、住宅断熱性と健康改善の研究結果からは、平成11年基準を更に上回る断熱性能の家に住むことで一層の健康改善が見られたとされています。
というのは平成11年基準であっても、実は窓がその他の部位に比較して弱点となっている場合があるのです。どういうことか、まずは窓に使われているガラスの性能を見てみましょう。
[図表2]では4種類のガラスの性能を感覚的にわかりやすいよう、「結露」が発生する温度で比較してみました。室内気温が20℃で湿度50%のとき、窓などのガラス表面が9.3℃を下回ると結露が発生します。つまり、室温が20℃のときに外気温が何℃になるとガラスの表面が9.3℃になるのか? という比較です。
まず、①の1枚ガラス(5ミリ厚)は外気温が4℃で結露を生じます。それが②のペアガラス(ガラス3ミリ+空気層6ミリ+ガラス3ミリ)ならマイナス7℃になるまで結露せず、更に③の遮熱ペアガラス(LOWーE(遮熱)ガラス3ミリ+アルゴンガス層12ミリ+ガラス3ミリ)ではマイナス20℃になるまで、④の真空ペアガラス(LOWーE(遮熱)ガラス3ミリ+真空層0.2ミリ+ガラス3ミリ)ではマイナス45℃になるまで結露が生じません。ガラスの種類によって、断熱性能に大きな違いがあることがわかりますね。
断熱基準の話に戻りますが、東京地域の平成11年基準では、窓の大きさによっては②のペアガラス+アルミサッシの組合せでも基準をクリアさせることができます。しかし、サッシ(フレーム部分)に使われているアルミはガラスよりも熱を伝えやすく、断熱性能が低い材質です(一般に断熱サッシと呼ばれるものには、熱を伝えにくい樹脂が使われています)。
また、②のペアガラスは、③の遮熱ペアガラスや④の真空ペアガラスなどと比較すれば、断熱性能は大きく劣ります。このような場合、平成11年基準をクリアしていても、窓に関しては決して「それで十分」といえる仕様ではないのです。つまり、平成11年基準を満たす家でさえも、窓まわりを断熱リフォームすることで更に暮らしを改善できる可能性があるということです。
このように、断熱不足というのは建てた年代に関わらず、皆さんが当事者という認識を持つべき問題といえます。では断熱リフォームとは具体的にどんなことをすればいいのか、考えていきましょう。