日本酒を選ぶときの基準「甘口」「辛口」。当たり前のように定着している表現ですが、実際のところ、一般的な「甘さ」「辛さ」と、日本酒のテイストは少し違っているようです。葉石かおり氏・監修、近藤淳子氏・著『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)より、日本酒の味の表現について、詳しく見ていきましょう。
日本酒を表す単位はなぜ「合」なのか
居酒屋で、店員さんに「日本酒1合ください」の一言がなかなか言えなかった20歳の頃。「合」という単位を使い慣れていないことと、当時は若い女性が日本酒を飲むと珍しがられたので、なんとなく恥ずかしいという思いがありました。
日常生活では水やガソリンなどの液体はリットル表記ですが、日本酒を表す単位はなぜ「合」なのでしょうか。
これは、長さを表す「尺」と、質量を表す「貫」による「尺貫法」に由来しています。尺貫法の起源は古く、中国・漢の時代に体系化された単位だといわれています。尺貫法は1954(昭和34)年に廃止され、1966(昭和41)年に国際的な計量基準に統一されると、徐々に使われなくなりました。
ただ、日本酒はこれまで歩んできた伝統を継承していくためにも、昔ながらの単位を使用し続けているという背景があるようです。
例えば、「1勺」は約18ミリリットル。2勺(約36ミリリットル)でお猪口1杯分くらいの量です。
「1合」は、約180ミリリットル。一合徳利、二合徳利など酒器にも使われています。結婚式の鏡開きで使われる木製の一合升もあります。また、ご飯を炊くときにも使っている単位、1カップも1合です。
「1升(しょう)」は約1.8リットル(1800ミリリットル)で、一升瓶のサイズです。最近では、一升瓶よりも冷蔵庫で保管しやすく、飲み切りやすいので、四合瓶(720ミリリットル)で販売されることが多くなってきました。四合瓶は「しごうびん」または「よんごうびん」と呼ばれますが、「しごうびん」は冠婚葬祭の際の忌み言葉と捉えられることもあるので、「よんごうびん」と呼ぶと良いでしょう。
「1斗(と)」は、約18リットル、一升瓶10本分。なかなか耳なじみがない単位かもしれませんが、日本酒を飲食店に卸す際に使われています。
「1石」は、約180リットル、一升瓶で100本。酒造の生産量を表すときに使われる単位です。酒造会社の生産量が800石の場合は、年間に一升瓶8万本の生産量があるといえます。また、石を「こく」と読むのは、中国の体積の単位だった「斛」の発音に由来するようです。
江戸時代の1石は、1年間に消費する1人当たりの米の総量とされることもありました。江戸人の1食は、米1合。つまり、1日で3合、1年で1,000合=1石も食べるとされていたのです。少々の香の物と大量の米を食べる食生活から、江戸患いと呼ばれた「脚気」が流行しました。これは、江戸時代に白米を食べることが流行ったことが原因です。玄米にはビタミンB1が含まれているので脚気にはなりませんが、精白米は糠を取り除くことでビタミンB1が欠乏するからです。
日本史では「加賀百万石の殿様」など、江戸時代の大名を呼ぶときにも「石」が登場します。日本酒の生産量を表す「石」は、米が経済の中心的存在だった時代から、その国の大きさや経済力を象徴する単位でもありました。
近藤 淳子
一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション
副理事長、フリーアナウンサー
葉石 かおり
一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション
理事長 酒ジャーナリスト、エッセイスト