(※写真はイメージです/PIXTA)

筆者は過去に100人以上のドクターの開業相談に乗ってきましたが、税理士がなにをする人で、どのようなことを頼めるのか、正しく理解されているドクターはごくわずかでした。独立を思い立つまで、税理士とは無縁だったドクターが多いと思いますので、無理からぬことだと思います。では、クリニック運営において、税理士がどのような役割を果たすのか、具体的に見ていきましょう。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

税理士の役割を理解していないドクターは、意外と多い!

税理士:勤務医時代には、税理士とはほとんど接点がなかったと思います。せっかくお会いしたのですから、普段気になっていることがあれば、なんでも聞いてくださいね?

 

ドクター:そうですね…。

 

税理士:先生、もしかしたら、私にいったいなにを聞いたらいいのか、よくわからないのではないですか?

 

ドクター:はい…。実はその通りでして…。

 

クリニック専門税理士として、開業準備中のドクターと初めてお会いしたとき、上記のような会話になるケースは少なくありません。恐らく、周囲から「そろそろ税理士を決めなくては…」と勧められ、なぜ必要なのかよく肚落ちしないまま依頼・面会されたのだと思われます。

 

そもそも税理士は、独立開業された経営者の方にとって、どのような役割を担っているのでしょうか。

 

一般的には、「事業を始めたい」という相談があったときには、

 

①事業計画の作成

②銀行融資立会

③開業までのお金にまつわる相談

④税務署への開業届の提出

⑤帳簿のつけ方指導

 

を行います。

 

これはなにもクリニック開業に限ったことではなく、飲食店や美容院といった一般事業の開業においても行う、税理士の開業支援の通常業務です。

 

では、クリニック専門の税理士の場合、上記となにが違うのでしょうか?

専門税理士だから知っている、開業ドクターの「本当の困りごと」3つ

そもそも開業されるドクターは、上記①~⑤の開業支援にまつわる業務について困っているのでしょうか? 多くの開業準備中のドクターのお話を聞いている限りでは、必ずしもそうではないように思います。

 

開業されるドクターのいちばんの関心事は「クリニックの経営が無事に軌道に乗るか」であり、困りごとは「その経営を軌道に乗せる方法が分からない」ことなのだと感じています。

 

それでは、もう少し掘り下げて考えてみましょう。

 

そもそも、クリニックの経営が「無事に軌道に乗った状態」とは、どのような状態だといえるでしょうか?

 

筆者のこれまでの経験に基づいて申し上げると、まずは開業1~3ヵ月目に、

 

●資金ショートを絶対に起こさないこと

●最低限の来院患者数が確保できていること

●最低限のスタッフ数を確保していること

 

が実現できている状態だといえます。

 

開業当初から資金も潤沢で、たくさんの患者様が来院され、優秀なスタッフに囲まれて経営をされるドクターも、ごくごく稀にはいらっしゃいますが、ほとんどのドクターはそうはいきません。まずは最低限上記のことをクリアするのが、現実的な目標になると思います。

 

上記1~3が開業ドクターにとっての最優先事項であり、それに比べると「税務署への開業届の提出」「帳簿のつけ方指導」といったことは、決して不要とはいいませんが、些末な業務であるように感じています。

 

それでは、お困りごとを1つずつ見ていきましょう。

 

1. 資金ショートの問題

銀行からの融資は、可能な限り多めに借ります。金利などの返済条件は二の次です。そうでないと、資金繰りが苦しくなった際、その後の診療等で無理が生じてくるリスクがあるからです。

 

具体的なエピソードを紹介します。

 

開業なさる直前にお会いしたA先生は、銀行からの融資が2,000万円程度と、かなり少額でした。「どうしてこんなに銀行借入が少ないのですか?」と聞いたところ、「だって、いらないお金を借りたら金利がもったいないでしょう? だから、銀行からの融資は最低限にしたんです。金利もいちばん低い銀行を選びました」とのこと。

 

しかし、開業時に優先すべきは、上述したように「多めに融資を受ける」ことです。

 

その後、A先生は患者獲得に苦戦され、資金繰りが苦しくなり、結果としてご自身が望まない過剰診療をせざるを得ず、レセプト単価が跳ね上がってしまい、いつ個別指導に当たるか不安な日々を送られていました。

 

そうならないためにも、まずは多めに融資を受けておくべきなのです。

 

不要なお金を借りると、金利がもったいないとの声が再び聞こえてきそうですが、それについてはご心配無用です。経営が軌道に乗り次第、余分なお金は繰り上げ返済をすればいいのですから。そうすれば結果的に「開業に必要な資金を必要なだけ借りた」ということになります。

 

2. 最低限の来院患者数の確保の問題

最低限の来院患者数が確保できているかどうかを開業後に把握するようでは、あまりにも遅すぎると思っています。

 

開業の前には、通常「内覧会」をおこないます。その内覧会の動員人数で、開業後の患者数が多いか少ないか、ある程度判断ができます。

 

覧会は、プロ野球でいうところのオープン戦に相当するものです。

 

「内覧会の動員人数」と「開業後の来院患者数」とは密接な関係があります。開業後の来院患者数が少ないクリニックは、内覧会が閑散としているものです。

 

よって、開業するドクターの当面の目標は「内覧会の動員人数をいかに増やすか」ということになります。内覧会を業者任せにするのではなく、ご自身でも「どうしたら内覧会の動員人数を増やせるか」を考えて、開業までの大事な時間を過ごしていただきます。

 

3. 最低限のスタッフ数の確保の問題

先にあげた、開業前に実現すべき3つのことのうち、近年において最もむずかしいのが「最低限のスタッフ数を確保していること」だと痛感しています。

 

人手不足の社会的な波は、すでにクリニックにも及んでいます。実際に「職を探している人」は驚くほど少ないのです。

 

求人サイトを見て「現在無職です。貴院の求人を見て面接にきました」という人は疑ってかかるべきだとすら考えています。これだけ人材不足の世の中なのですから、「この人材不足のご時世で、なぜ無職なのか?」と考えたほうがいいでしょう。

 

ではどうやって人材を確保したらいいのでしょうか?

 

方法①知人への声かけ

まずは、知人を中心に求人活動を始めるのがいいと考えます。心許せる知人に「あなたの知り合いで、いまの勤め先を辞めたがっている人はいないか? もしいるようなら、まずは話を聞かせてもらえないか?」とお願いしてください。ただし、現在の勤務先から引き抜くことは、道義上なるべくやめたほうがよいと思います。

 

方法②開業予定看板での告知

次に、クリニック開院予定地の看板に「スタッフ募集中 連絡先〇〇まで」と記載してもらってください。できればHPのURLを記載しておき、ドクターの人柄や目指す医療が伝わるようにしましょう。クリニックの開業予定地の前は、毎日たくさんの人が通行します。そのなかには一定数、現在転職を考えている看護師や医療事務の方もいると思われます。実際に、看板から複数名の応募があったクリニックもあります。

 

方法③求人サイトでの告知

求人サイトでの募集は最終手段です。上記のやり方で、どうしても最低限のスタッフを確保できなかった場合、足りない人数を求人サイトから採用するようにしましょう。

クリニックの開業は一生に一度、後悔のない選択を!

クリニックの開業は一生に一度です。あとになってからドクターが「あのとき、ああしておけばよかった…」と後悔することのないよう、筆者自身もできるだけきめ細かいアドバイスをすることを心がけています。

 

これらの情報が開業されるドクターの皆さまのお役に立つのであれば幸いです。

 

 

鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人  代表税理士