文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査」によると、私立中学の場合、世帯年収が600万円未満の親は1割程度。残り9割が600万円以上で、世帯年収1,200万円以上の割合は4割を占めています。本記事のAさん夫婦の世帯年収では、私立中学に子どもを通わせることもなんら問題ないようにみえますが……。今回は公認会計士、税理士、証券アナリスト、CFP、宅地建物取引士の資格を持つ鄭英哲氏が、事例をもとに高収入家庭の家計管理の注意点について解説します。
「可哀そうだけど、長男を公立に転入させるしかない」世帯年収1,600万円の40代夫婦、勝ち組人生のはずが…まさかの家計破綻。子どもに惨めな思いをさせるワケ【CFPが解説】

それでもやめない夫の浪費…呆れた言い分

給与明細の偽造はあったものの、今後は節制してくれればよかったと思われます。Aさんの年収と合わせると、夫妻の世帯年収は1,600万円と比較的裕福な家庭といえるでしょう。しかしながら、夫は浪費をやめず、それからも毎晩のように飲み歩いていました。

 

浪費を辞めない夫の言い分。それは……「会社員の平均年収の3倍近く稼いでいるのに、お金が足りないのは妻(Aさん)の家計の管理が悪いからだ。自分もどこかでたくさん使っているのではないか。それがはっきりしない限り自分はこれまでどおりお金を使う」。

 

しかし実際に、家計は火の車状態。給与明細の偽造がわかったころには、長男が私立中学に進学していたのです。

 

多くのケースで家計ひっ迫のきっかけは「第一子の塾通い」から

長年FPをしているとわかるのですが、第一子に学費がかかるようになったら家計は将来に向けてひっ迫します。

 

たとえば、毎年100万円ずつ貯金している家計があったとしましょう。子どもが未就学児または小学生のときならそれほど難しくなく続けられるかもしれません。しかし、第一子が塾に通い始めたらその後は要注意。その数年後には第二子以降にも同様の費用がかかり、そうこうしているうちに第一子が進学。これが大学卒業まで続くとなると、毎年100万円貯金するどころか、いままで貯めた貯金なんて数年で吹き飛びます。

 

このAさんのケースも、長男は私立中学したときとそれ以降も、入学金、制服代、設備費、昼食費、副教材費など公立中学校にはないさまざまな費用がかかりました。結局、夫には貯金もないことから、これらの費用はAさんの貯金から払うことにしたのです。

 

ただ、お金の問題はまだまだ解決しません。長男が私立中学に入学したにもかかわらず、これまでどおりの生活費しか入れてくれません。次男も塾に通わせて、長男と同様の進路に進ませてあげたい。結局、増えた学費などにより生活費で賄えない分は、Aさんのパートの給与や貯金から捻出することにしました。そのあいだ、夫は相変わらず毎晩飲みに歩いています。

 

これから増えていく生活費や学費。ある分だけ浪費する夫。底を尽きかけたAさんの貯金。

 

「次男の私立進学は絶望的。それどころか、せっかく苦労して入れた長男を公立に転入させるしかない……。親が不甲斐ないばかりに可哀そうなことをしてしまう……」。

 

将来への不安が増大したAさんはついに精神的に病んでしまい、仕事を辞め精神科に通うことになってしまいました。そのようななか、筆者のもとへ相談に。