そもそも、なぜ「ふるさと納税」がつくられたのか
地方で生まれ育ち、進学などを機に都会に出てきた人は、就職すると住んでいる都会の自治体に住民税を納めることとなります。地方自治体の地方税によって育てられたにもかかわらず、いざ納税者になってから税金を納める先は都会の自治体となると、生まれ育った地方には税収が入りません。ふるさと納税は、このアンバランスな状態を改善するための制度とされています。
生まれ育った故郷に何か貢献できるような税制があっても良いのではないか、また、自分が応援したい自治体がある場合は、納税者が寄付先の自治体を選択できるようにしても良いのではないかという趣旨で、2008年5月から始まりました。
ふるさと納税のメリットとは?
ふるさと納税では、地方自治体に寄付をしたうえで所定の手続きをした場合、寄付金のうち2,000円を超える部分については所得税の控除や住民税の税額控除が受けられます。ふるさと納税をすると、寄付金額の30%以内の地場産品などの返礼品を受け取ることができます。
返礼品を「寄付金額の30%以内」や「地場品など」とする規制は、制度開始後の2019年6月以降に加わりました。ふるさと納税の普及に伴い、Amazon商品券等を返礼品にするなどと大々的に宣伝して大きく寄付を集める自治体が出てきたことなどが問題視されたためです。しかし規制後もふるさと納税の人気は依然として衰えず、2022年度のふるさと納税の寄付総額は前年比1.2倍の9,654億円と1兆円に迫ります。
ふるさと納税のデメリットとは?
お得な節税策と思われているふるさと納税ですが、メリットばかりではありません。デメリットについてもしっかりと認識しておきましょう。デメリットはどんなものがあるでしょうか?
■控除の限度額を超える分は自己負担
ふるさと納税で控除される額には、納税者それぞれの所得に応じた限度があり、限度額を超えた分は自己負担となります。所得税の還付・住民税の控除を受けることができるのは、限度額の範囲内までということになります。
控除の限度額は、収入や家族構成などによって異なるため、自分の所得や家族構成などをしっかりと把握する必要があります。ネットで「ふるさと納税 限度額」と検索すると自動計算してくれるサイトもありますので、試してみてはいかがでしょうか。
■原則として確定申告が必要
ふるさと納税による所得税の還付・住民税の控除を受けるには、原則として確定申告が必要です。普段は確定申告をする必要がないサラリ-マンなどが、1年間に5つ以下の自治体にふるさと納税をする場合には、確定申告に代えてワンストップ特例制度を利用することができます。
なお、1年間に6つ以上の自治体にふるさと納税をする場合は、ワンストップ特例制度を使うことはできません。ワンストップ特例制度とは、ふるさと納税をした後に確定申告をしなくても税の控除を受けることができる制度です。
ふるさと納税と同時に申請書を提出することで、ふるさと納税先の自治体が住所地の市町村に対して控除に必要な情報を連絡し、かつ、住所地の市町村がふるさと納税をした翌年度の住民税を減額します。しかし、申請書も提出せず、確定申告もしないでいると、ふるさと納税をしても税の還付・控除を受けることはできなくなりますので注意しましょう。
■ワンストップ特例制度の適用条件に注意
ワンストップ特例制度で確定申告をしなくてもよくなるのは、あくまでもふるさと納税についてだけです。たとえば住宅ローン控除を受ける場合(初年度のみ)と医療費控除の適用を受ける場合には、ワンストップ特例制度を併用することができません。これらと同時にふるさと納税の申告をする場合には、ワンストップ特例制度を使うのではなく、確定申告でふるさと納税の申告を行う必要があります。
■ふるさと納税は節税や減税制度ではない
誤解されている人も多いのですが、ふるさと納税は、節税・減税のための制度ではありません。あくまでも寄附によって税金の控除を受けられるだけです。ふるさと納税は実質的には税金の前払いであり、支払う税金が減っているわけではありません。
例えば、ふるさと納税を2万円行った場合、ふるさと納税を支払った年の所得税や翌年の住民税から1万8,000円分控除されますが、支払ったお金が返ってくるわけではありません。ただし、ふるさと納税をすることによって返礼品をもらうことができますので、返礼品の価値相当分は得していると考えることができます。
■お金が戻ってくるのは翌年
ふるさと納税をすると税金の還付という恩恵を受けられますが、還付されるのは申告書を提出する翌年以降のこととなります。ふるさと納税はあくまでも「節税」ではなく、「寄付」であるため、仮に何十万円という多額のふるさと納税をした場合であっても、還付を受けるのは翌年となります。
■控除を受けられるのは納税者本人のみ
たとえば、収入がなく税を納めていない専業主婦がふるさと納税をした場合、本人に収入がなく税を納めていないため、何も控除を受けることができません。たとえ夫が多くの収入があったとしても、収入のない専業主婦が、自分の名義でしたふるさと納税によって夫の税金が還付・控除されることはないため、ふるさと納税をする場合は所得のある夫の名義で寄付をするように気をつけましょう。
■住所地にふるさと納税をしても返礼品はもらえない
住所地にふるさと納税をすること自体は可能ですし、また、居住地にふるさと納税をした場合、税金の還付・控除を受けることもできますが、返礼品をもらうことはできません。少し残念な気もしますが、そもそも住所地は本来税金を納めるべき場所であり、住んでいる自治体から返礼品を受け取ることはふるさと納税の趣旨から外れるためという理由です。
ふるさと納税で「損」するのはどんな人?
ふるさと納税をすると損をしてしまうのは、住民税や所得税が免除されている方や収入が少ない方です。そもそも収入のない専業主婦や学生、無職の方は、そもそも住民税・所得税を支払っていないため、ふるさと納税によって控除されたり還付されたりということはありません。このためふるさと納税をしてもその寄付金はすべて自己負担となり、その分だけ損をしてしまう可能性があります(返礼品はもらえます)。
また、収入があっても、その額が少なかったり、所得税が課されない範囲の収入であった場合には、ふるさと納税をしても控除・還付の恩恵を受けることができません。これはパート・アルバイトなどで給与収入が少ない方だけでなく、個人事業主で所得が少ない方や赤字申告をしている方も同様です。
また、自分の所得の限度額を超えて寄付してしまった場合も、その分は自己負担となるため注意が必要です。所得や家族構成などを確認し、限度額について把握しておくようにしましょう。
デメリットを押さえて上手に活用しよう
いかがだったでしょうか? ふるさと納税はやればみんなが得をするという制度ではないようですね。
所得が高い人ほど限度額が高くなるため、「金持ち優遇の制度ではないか」とか、「寄付を受ける自治体の格差が大きくなっているのではないか」、また「都市部の自治体は大きな税収減という状態になっており、必要な住民サ-ビスを提供することができなくなっているではないか」などとの批判も大きくなってきています。ふるさと納税は2023年10月から一部ルール変更・改定されましたが、今後も改正されるかもしれません。
せっかくふるさと納税で得をしようとしているのに、損をする結果となるのは残念ですよね。デメリットをしっかりと把握して、うまくふるさと納税を活用しましょう!
宮路 幸人
多賀谷会計事務所 税理士、CFP
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