Q.最近「おひとりさま」という言葉をよく見かけますが、どういう方をそう呼ぶのでしょうか。
A. 厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によると、日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳だそうで、まさに人生100年時代を迎えています。100年も生きることになれば、人生いろいろありそうですね。これまでにない状況が発生し、これに備える必要があるかもしれません。特に「おひとりさま」の場合は、状況にあわせて対応してもらえる家族がいないので、自分自身で対策を考えておく必要があります。
一口に「おひとりさま」と言っても、人によって使う意味が異なるようです。「一人で生活している人」「自立した一人の人間」などの意味もあれば、「結婚しない人」を指す場合もあるようですが、相続・遺贈分野では、生活様式としての単身世帯であることよりも、法的な親族関係が着目され、次のような方が「おひとりさま」と呼ばれています。
1.子どものいない夫婦
相続人は配偶者と親または兄弟姉妹です。「おふたりさま」という言い方もあるようです。夫婦のどちらかが亡くなると、残された方が下記2.になります。
2.独身、配偶者と離死別
配偶者も子どももいないので、相続人は親または兄弟姉妹になります。
3.相続人が誰もいない
配偶者・子ども(孫)・両親(祖父母)・兄弟姉妹(甥姪)など誰もおらず、「相続人不存在」となります。
今回は検討すべき課題を広く捉えておきたいので、1に近い方を対象に考えたいと思います。つまり「子どものいない人」という定義です。
Q.お子さんがいないご家庭は、現在どのくらいあるのでしょうか。
A.国勢調査には、「世帯の構成人数」のデータはあっても「子どものいない人」というデータはありません。そこで、厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)をみたところ、全国世帯総数5431万世帯のうち、65歳以上の人がいる世帯が50.6%(2747万4千世帯)と半数を超えます。その世帯構造をみると、ご夫婦のみ世帯が最も多く(32.1%、882万1千世帯)、次いで単独世帯(31.8%、873万世帯)、親と未婚の子のみの世帯(20.1%、551万4千世帯)となっており、その割合は年々増加してきました。
また、内閣府の少子化社会対策白書(2022年)によると、2015年における50歳時の未婚割合が男性23.4%・女性14.1%と、1990年以降その割合が急上昇しており、未婚化・晩婚化の流れが変わらなければ、今後も未婚割合の上昇は続くと予測されています。
現在の75歳以上では、おひとりさまの割合は10%程度ですが、20年後には30%を超えそうです。人生100年時代に後期高齢者の30%がおひとりさまとなると、これはもう個々人の問題というよりも、社会全体として対策を考える必要がありそうです。
Q.社会全体の対策も少しずつ進んでいますが、おひとりさまが直面しそうな困りごとにはどんなことがあるでしょうか。
A.人生100年時代とは言えでも、健康寿命は75歳前後とされており(厚生労働省、2019年)、心身ともに健全なまま最期を迎えることは稀なことです。認知症になっても、すぐに認知機能がすべて失われるわけではなく、徐々に低下していきます。また、認知機能低下の前段階には、フレイル(病気ではないけれど、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい)という状態もあるようです。
子どもを含む家族が身の回りにいるのが標準的であったかつての社会と異なり、おひとりさまが普通にいる現代社会では、血縁関係にすべてを依存することを前提とした終活は成り立ちません。おひとりさまは、何かあったときに頼れる親族がいない状況にあります。その「何かあったとき」「いざというとき」には、次のようなものがあるでしょう。
◆判断能力が減退したとき
・常用薬の服用や通院
・介護や看護の手配
・財産の管理 など
◆死亡したとき
・葬儀やお墓の手配や連絡
・公共サービスの解約や遺品整理
・遺産の清算・分配 など
このほかにも、いろいろとありそうです。何かに備えようとしたときに、何らかの「契約」が必要になれば、意思能力だけでなく行為能力も必要になりますので、正常な判断ができるうちに準備をしておきましょう。
なかでも、自分が亡くなった後の財産のゆくえは気になるところです。誰も相続人がいないと、民法が定める手続きに沿ってすべての財産が国のものになります。そこで最近では、社会課題の解決に取り組む非営利団体に遺贈寄付をするなど、元気なうちにご自身で遺産の活かし方を決める人が増えているのです。
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