退職金は一括で受け取ると、所得税と住民税がかかることがあります。また、退職金を分割で受け取る場合、受け取っていない分の退職金は運用されるため、年金増額も期待できます。ここまでみると、退職金は「分割受け取り」がよさそうですが、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPは「退職金を分割で受け取ると、損をする可能性が高い」といいます。退職金を「345万円」損したWさんの事例をみていきましょう。
後悔しています…定年退職金「分割受取」を選択→“300万円以上の損”に気づいた60歳・男性の嘆き【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金を“分割”で受け取ると、「雑所得」扱いに

一方、退職金を「分割」で受け取った場合を考えてみましょう。20年の年金形式で受け取る場合は受給額が年115万円(運用益を見込まず)となり、こちらは「雑所得」という扱いになります。そのため、

 

・所得税
115万円×5%=5万7,500円(①)

 

・住民税
115万円×10%=11万5,000円(②)

 

①+②=17万2,500円

 

となり、年間約17万円の税金を支払う必要があります。20年間払い続けると、トータルで345万円です。さらに、退職金を一括受取する場合には社会保険料はかかりませんが、雑所得の場合は社会保険料もかかります。

 

このように退職金の「一括受取」であれば退職所得控除があるため所得税と住民税を合わせて18万円程度ですが、「分割受取」の場合は退職所得控除がないため、所得税と住民税の負担は300万円以上の差が生じます。

 

「自分でしっかり調べずに分割を選択してしまい後悔しています……。大事な老後資金ですからね、もっと真剣に考えればよかった」Wさんはこの事実を知り非常に落ち込んでいました。こうなると、運用益の上乗せを期待するしかありません。

 

ちなみに、もしも「退職所得控除」がなかった場合の税金額を試算してみましょう。Wさんの支払うべき税額は下記のようになります。

 

・所得税
2,300万円×40%-279万6,000円=640万4,000円(①)

 

・住民税
2,300万円×10%=230万円(②)

 

①+②=870万4,000円

 

所得税(①)と住民税(②)を合わせると、課税額は約870万円にのぼります。退職所得控除を活用すると課税額は18万1,260円となるため、退職所得控除がいかに重要かがわかります。

 

まとめ

退職金を年金形式で分割して受け取る場合、「運用益が見込める」というメリットがあります。しかし、現在の運用利率では税金や社会保険料で支払う金額以上の利益を期待するのは難しい状況です。

 

将来的に受け取れる退職金や年金が少ないと感じている方はiDeCoやNISAを活用し、少しでも多く老後の資金を準備するようにしましょう。

 

 

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役