万が一のときのために加入している生命保険。しかし、病気やけがによる治療が長期化し、収入が減ってしまい家計が赤字になると、月々の保険料負担を重く感じることもあるかもしれません。保険の保障のなかには、そうした事態を防ぐものがあることをご存じでしょうか。本記事では、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が、西村優子さん(仮名・41歳)の事例とともに、がん保険の適切な備え方について解説します。
年収900万円の43歳・大黒柱の夫が「胃がん罹患」で家計破綻へ…41歳・専業主婦の妻が決断した「苦渋の選択」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

がん治療の最中に生命保険を解約するしかない…

がんの転移で夫が抗がん剤治療を開始してから3ヵ月経過したあたりから副作用が思いのほか強く出てきて、夫は治療の前後には仕事を休まざるを得なくなってしまいました。

 

いままでは営業職の最前線で活躍し、海外出張にも頻繁に行っていた夫ですが、体調面との兼ね合いからそれが困難に。会社とも相談し負担の少ない事務職へ配置転換、状況に応じて在宅勤務での対応にしてもらうなど、がん治療との両立に対し配慮をしてくれたのですが、毎月の給与収入は大幅に下がることになりました。

 

有給休暇も使い果たし、今後長期で休職となる場合には傷病手当金の受給も視野に入り始めていますが、その場合の収入は年収ベースで半額以下になってしまう模様です。収入が減ったにもかかわらず抗がん剤治療の費用が毎月数万円掛かり続け、毎月の家計収支が大幅な赤字に陥ってしまっているのですが、しばらくは毎月貯蓄で補填しながら過ごしてきました。

 

夫がなかなか思うように働けないので西村さんが働きに出ることも考えましたが、家事や子育て、そこへ夫の看病も加わり思いどおりには動けません。このままの状況が続くと、貯蓄が底をつき破綻を招く恐れがあるため西村さん夫妻は家計状況を改善することにしました。ただ、できるところは節約するにしても、子供たちの教育関連費は削りたくないし、生活水準も急には変えられません。そこでとてもつらい選択ですが、夫とも相談し、毎月約5万円の負担である生命保険を解約するしかないという結論に至りました。

 

今回の西村さん夫妻の判断は、こういった状況になってしまった以上やむを得ない部分もあるかもしれませんが、保険加入の時点に遡ると一定の問題点があるといえるかもしれません。こういった結果を招かないために、以下で保険選択の観点から2つの問題点について確認したいと思います。

 

まったく想定外のがんによる収入減

まず問題点の1つ目はがんなどの大きな病気での死亡リスクは考えたものの、仕事ができず稼げないというリスクについてはまったく考慮されていないことです。西村さん夫妻が生命保険を検討した際の思考は、

 

①夫が生存=給料を稼げるので経済的に安心

②夫が死亡=給料を失い家族が経済的に困窮

 

というものになっていたため、備えが夫の死亡保険のみに集中するという選択になっています。これは30年以上前であれば一般的でありましたが、現在のがんを取り巻く状況からするとそれは現実的ではない選択であったといわざるを得ません。

 

上の思考の図式ですが、病気などのリスクを考える際には、

 

①夫が生存=給料を稼げるので経済的に安心

②夫ががんに罹患も生存=給料が下がり治療費などで出費が増える

③夫が死亡=給料を失い家族が経済的に困窮

 

というがん治療をしながらいままでどおりの生活が長く続くというシナリオを加える必要があります。盲点のような展開ですが、②で経済的に厳しくなり、さらにその後③に至るというシナリオが最も経済的にダメージが大きくなるといえます。

 

がんになっても継続する毎月の保険料

家計収支が厳しくなった時に、節約の対象としてあがってくる生命保険。西村さん夫妻も月々約5万円と金額の大きい保険料をカットするという選択をしました。ただこの生命保険ですが、本来はこういった状況になったときのために加入したのではないでしょうか。がんに罹患し死亡リスクが高まったときに生命保険を解約するということは、本来の保険加入の目的をまったく果たしていませんし、その決断はとてもつらいものです。

 

2つ目の問題点ですが、それは保険をかける対象が不適切であったということです。がんも不治の病といわれた時代もありましたがそれはもう30年以上前の話しになります。現在は国のがん対策においても『がんとの共生』ということがうたわれており『がん=死』という認識は不適切といえます。

 

がんへのリスクを考える場合には、先ほど示した『夫ががんに罹患も生存=給料が下がり治療費などで出費が増える』というシナリオを想定する必要があるのですが、そうなったときに毎月の保険料負担が厳しくなり節約対象になるかもしれないというところまで、保険加入時にあわせてイメージできるかどうかが非常に大切です。