ここ最近、国内の金融機関がステーブルコイン(=仮想通貨)の発行を検討する動きが相次いでいます。こうしたなか、マネックス証券の暗号資産アナリスト松嶋真倫氏は、日本で近い将来「暗号資産ブーム」が再来する可能性を指摘します。日本では決済システムが安定しているにもかかわらず、国内の金融機関が続々とステーブルコインの発行を検討しているのはなぜか、その理由をみていきましょう。
日本が向かう「web3.0」の世界…近い未来「暗号資産ブームの再来」が予想される理由【暗号資産アナリストが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

web3.0の世界でステーブルコインは現金のような役割を果たす

国内においてもステーブルコインの発行が増えると書きましたが、SuicaやPasmoなどの電子マネー、PaypayやLINEPayなどのモバイル決済があるなかで「いったい誰がステーブルコインを活用するの?」と疑問に思われるかもしれません。

 

確かに金融インフラとして見た時には、日本人がステーブルコインを決済の用途で使うことは考えづらいでしょう。しかし、銀行サービスが普及していない新興国や、経済破綻が起きているような国において、ステーブルコインは金融機関に代わって資産を守る手段として注目されています。

 

実際にフィリピンやベトナムなどの出稼ぎ労働者の一部は、送金コストの低いステーブルコインを利用していると言われています。また、ロシア・ウクライナ戦争が起きた時なども、自国の通貨や金融システムを代替するものとしてステーブルコインが使われています。

 

このように話すと国として安定した日本ではステーブルコインの利用が広がらないのではと考えるでしょうが、web3.0の世界が拡大した時には否が応でもステーブルコインが必要になります

※web3.0:ブロックチェーン技術を用いることでインターネットがさらに分散化の度合いを強めた姿を指す言葉(野村総合研究所より)。

 

現実資産(RWA)が将来的にブロックチェーン上で取引できるようになると、そこで法定通貨に当たるものがステーブルコインであり、現金と同じように、トークン化されたあらゆる資産を決済する手段として重要な役割を果たします。

※現実資産(RWA):Real World Assetsの略で、日本語では現実資産を意味する。たとえば、不動産やコモディティ、アート、自動車、ワイン、時計、最近ではトレーディングカードなど、物理的な価値を持つ資産のこと。

 

たとえば、今では暗号資産投資で得た利益を株式の運用に回そうと思った時には、お金を専用口座から銀行口座に移してさらに別の専用口座に入金する手間がかかります。しかし、web3.0の世界では株式も債券も同じウォレットで管理し、そこにあるステーブルコインで支払うことができます。

 

これはゲームなどの非金融領域でも同じです。今ではゲームごとにクレジットカードを登録して課金する必要がありますが、ブロックチェーンゲームの世界ではアバターやアイテムなどを売買する時に共通の財布からステーブルコインで支払うことができます。

 

web3.0の世界における覇権争いはこれから本格化していくと思いますが、民間では金融機関らが経済圏の核となる「通貨」のポジションをおさえようと徐々に動き始めています。これを見て各国政府は中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)の研究を加速させています。

 

 

松嶋 真倫

マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ

暗号資産アナリスト